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ここでは仮に2人の異なるタイプの候補者がいたと設定します。X君はベテランで生鮮三品を担当、生産者をきめ細かく回り顧客の要望を伝えています。そのためか顔見知りのお客も多く、本人も店に立つことが好きで、会話の中でカンを働かせながら商品を選んでいるようです。
Y君は加工食品を担当。X君とは反対に事務室でレジデータを分析し、それに気象条件などを加味し、日々素早く商品構成をかえていきます。つくづく、この2人を足して2で割ったらと考えてしまうようなケースです。
店長にしてはダメなタイプ
質問にお答えする前に店長としてふさわしくない者のタイプを言います。まず、陰徳のない者。陰徳とは人の見ていないところで良心に基づいた働きをすること。この反対が陽徳、つまりスタンドプレー。江戸時代の商家の家訓には「陽徳の好む者、番頭にするべからず」というのが多くあります。次にケチも適していません。事業は、時として大損を覚悟で決断しなければならないことがあります。しかし、ケチな者は、目先にとらわれタイミングを逃すことが多くあります。そして、その性格はなかなか直りません。ただし、目的をもった倹約は大切です。これとケチとは違います。
店舗の数を増やすことや、売り場面積を拡大することが重要な戦略のように思われていますが、それは正しくありません。そのことは、大手スーパーや百貨店の現状を見ればよくわかります。これらの大手の多くの経常利益率は1%前後です。200円の売上で税金を差し引くと、たった1円しか残らないのです。世の中には経常利益率50%という会社もあります。同額のお金を手元に残すのに、売上は50分の1で済むことになります。売上が増え、利益が上がり、店舗が多くなっていくのは結果なのです。では本当の目標は何でしょう。
特別なことはありません。お店のお客は誰かを見つめ、満足していただく努力をすることです。と言って店の全てのお客満足を考える必要もありません。7対3の原則というのがあります。上位30%の常連顧客が店の利益の70%をもたらしてくれているという原則です。上位30%の顧客に標準を合わせた努力でいいのです。
店主を育てるポイント
さて質問者の場合、いい店だから自分たちの近くにもつくってほしいという要望からの検討です。多店舗化はこのように顧客の支持を得ながら波紋となって広がっていくのです。
すると誰を店長にすべきか、すぐにわかります。X君は動かすべきではありません。もし動かせば売上は大きく減少します。お客は、X君がいるから安心してきているのです。X君の商品への責任感が顧客の支持を得ているのです。
店の責任者を育てるには重要なポイントがあります。まず第1に経営をガラス張りにして秘密をつくらないこと。目立たない所にホコリはたまる。第2に成果配分の給与体系を確立する。原則は顧客の満足を1番得た者が1番高い報酬を得られること。3番目に売価、商品構成、仕入に関する権限を委譲する。店によっては本部で何もかにも決めてしまう所があるが、これでは考えようとしない指示待ち店長しかつくれない。
欲しいのは「私の店」という愛着を持った店主なのです。そして、店の責任者は顧客の顔と名前を1000名覚えること。分厚いマニュアルも必要ない。これだけで十分です。
Y君のようにデータを駆使したやり方はロスを減らすことには役立つかもしれない。しかし、バックヤードにいたのでは顧客の声は聴けないし、オリジナル商品を創ることもできない。Y君は、新店長としてX君を見習い、フレンドリーな顧客づくりに努力すべきです。
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