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<講演録>
創業者支援に会計事務所が担う役割とは
―第18回北陸会秋期大学特別講演―
中小企業庁創業連携推進課長 小野 伸一 氏
(とき:平成13年9月7日(金) 場所:ホテルニューオータニ高岡)
日本経済は長引く不況を反映して、近年、開廃業率の逆転現象が続いている。中小企業庁はこの傾向を憂慮し、平成11年「中小企業基本法」の改正を行い、中小企業こそが日本経済再生の原動力と位置付け、様々な施策を打ち出した。創業・ベンチャー企業の支援、中小企業の経営革新はその中核を担う。
国民経済における中小企業の存在の大きさと重要性に鑑み、特に創業支援と経営革新をTKC全国会では重要課題と位置づけている。第18回北陸会秋期大学の特別講演において、中小企業庁創業連携推進課長の小野伸一氏は、創業支援に果たすべき会計人の役割を強調した。
創業支援は平沼プランにおいても重要な柱
今年になり、中小企業庁の経営支援部組織課は創業連携推進課という名称に変わりました。これまで創業と名のつくセクションはなかったのですが、省庁再編の時期と相俟って、中小企業政策においても創業の意味合いが大きくクローズアップされました。
平沼赳夫経済産業大臣が提唱する「新産業創出に向けた重点プラン(平沼プラン)」においても、創業支援は日本経済再生のための重要なポイントでして、今後5年間で創業事業者数を18万社から36万社に倍増させるという目標を掲げています。今日唱えられている経済構造改革の観点からも創業支援は避けて通れないテーマです。ですから会計人の皆様からも創業支援に関するご意見をいただいて、政策現場にフィードバックしたいと考えています。
中小企業こそ日本経済のダイナミズム
わが国の中小企業政策を法律面から眺めると、平成11年に「中小企業基本法」が改正されたことが、中小企業政策の大きな転換軸となりました。旧中小企業基本法は、企業間における生産性等の「諸格差の是正」を基本理念にし、スケールメリットの追求、つまり大企業との格差是正に主眼を置いていました。しかし新中小企業基本法では、独立した中小企業の多様で活力ある成長発展を新機軸に、1つ1つの企業の経営革新と創業促進、経営基盤の強化、環境激変に対応するセイフティーネットの構築が重視されています。
また、中小企業の位置付けと役割も、1.市場競争の苗床 2.イノベーションの担い手 3.魅力ある雇用機会の担い手 4.地域経済社会発展の担い手――というような定義に移行してきました。わが国の企業の実に99.7%が中小企業であり、雇用も69.5%を占めています。まさに21世紀における中小企業は、その機動性、柔軟性、創造性からも、日本経済ダイナミズムの源泉といえるのです。
創業を支援する3つの新法
創業支援に関連するいくつかの新法が公布されました。前述の「中小企業基本法改正」を機軸に、平成7年「中小企業創造活動促進法」、平成10年「新事業創出促進法」、平成11年「産業再生特別措置法」という中小企業の創業支援を含んだ3つの法律が整備されました。さらには、平成11年「中小企業経営革新支援法」が公布され、中小企業の経営革新を促進する体制も整いました。それだけでなく「中小企業支援法」が平成12年に成立し、これにより都道府県等支援センターが設立され、そこにおいて中小企業の経営コンサルテーション等が行われています。
ではここで、新法の詳細を見てみましょう。まず「中小企業創造活動促進法」は、地域で奮闘する中小企業の支援を主眼にして、その活動を都道府県がサポートする法律です。
具体的には、(1)研究開発事業計画の認定制度と(2)都道府県の指定支援機関(ベンチャー財団)の設立です。(1)はベンチャー企業や創業直後の意欲的な企業を都道府県が認定し、各種支援措置を講ずるという制度で、平成13年3月末現在で7,591件の事業者が認定されています。(2)指定支援機関の設立とは、「ベンチャー財団を通じた直接金融支援」といわれるもので、都道府県が中小企業事業団から高度化融資をベースに基金を立ち上げ、社債の引受け等を通じてベンチャー企業に対する融資をする仕組みです(資料1)。
次に「新事業創出促進法」についてですが、この法律の狙いも中小企業・ベンチャー企業支援にあり、平成12年に改正されています。改正前も、(1)創業促進 (2)中小企業の技術開発支援(SBIR=Small
Business Innovation Research) (3)新事業創出のための地域プラットフォーム整備という3つの柱で構成されていましたが、改正によって(1)創業促進が拡充され、商法の特例措置、金融支援、税制優遇等の様々な支援が受けられるようになりました。(3)地域プラットフォーム整備は、従来あった「テクノポリス法」「頭脳立地法」の要素が集約されたものです。この法律は主に株式公開を目指す企業等を対象にしており、現在までに128件認定されています。
3つ目の「産業再生特別措置法」は、大企業がリストラや分社化等で事業の再構築をする際の支援を意図していますが、この法律には、中小企業の新事業開拓を支援する仕組みもあります。具体的には、経営資源を活用して新しい事業計画をする際は都道府県知事の認定を受ければ、(1)小規模事業者等設備導入資金助成法による無利子設備資金貸し付けの拡充と (2)中小企業信用保険法による債務保証制度の拡充が実施されます。また同法律には、研究活動の活性化<(注)日本版バイ・ドール法>の規定があります。これは国が委託研究開発を行う場合、その成果である特許権を受託者側に譲り渡すことによって、研究開発の意欲促進と事業への転化を図るものです。
(注:新事業創生のための特許権拡大の法律)
開業率と廃業率の逆転現象
ここで創業やベンチャーを巡る現状について紹介します。平成8年〜11年のわが国の開業率は3.5%(18万社)、廃業率は5.6%(28万社)となっています。開業率と廃業率が逆転し、しかもその差が10万社というのはやはりショッキングな数字です。ちなみに97年度の米国の開業率は、14.3%、廃業率は12%といずれも2桁数字の活況を呈し、しかも開業率が廃業率を上回る状況です。欧州においてもフランス、ドイツ、イギリスの開業率は軒並み10%を超えており、日本との格差は明瞭です。
日米の店頭公開企業数の比較をしてみても、米国のナスダックとナスダック・ジャパン・東証マザーズを対象にした統計では、2000年度の公開企業数は米国397社に対し日本は164社でしかありません。また「日米両国の店頭市場の比較(資料2)」を見ても、時価総額はアメリカの37分の1、売買代金は190分の1とまだまだ規模が小さい。しかし日本の店頭市場も整備されてきており、登録企業数も徐々に増加傾向にありますから、今後のベンチャー企業の株式公開に大いに期待するところです。
雇用創出の担い手としての中小企業
じつは近年、雇用は大企業ではなく中小企業が創出しています。トレンドとしては大企業の雇用が横這いであるのに対し中小企業は増加傾向にあります。大企業のリストラの受け皿としての中小企業の役割が相対的に大きくなっているようです。
それから創業に関連する問題には高齢化があります。とりわけ自営業種(非農林業)の高齢化が近年進行していて、現在、自営業者の6割が50歳以上です。それと比例して創業時の年齢も高年齢化しています。昭和30年代では30代までが創業の時期でした。しかし平成3年以降になると圧倒的に40代以降が主流です。つまり若い世代だけでなく高齢者の創業対策も必要なのです。
自営業者数は平成11年で約600万あるのですが、10年前に比べると約100万ほど減少しています。業種別内訳では、この10年間で製造業が149万人から89万人に減少し、小売業も132万人から101万人に減っています(資料3)。これは構造調整の結果という指摘もありますが、着目すべきはサービス業等の新しい雇用が増加傾向にあるということです。つまり新事業分野における雇用の創出がなされており、その意味でも今後は、業種間の資源の配分を勘案した上で創業の意味が問われるものといえます。
起業家精神の確立と資金面での支援が大事
そこで、創業時に求められる要素ですが、中小企業庁の「中小企業創造的活動実態調査」によると、やはり資金調達が1番の懸念のようです。1400兆円の金融資産があるのに、アンケートのたびごとに起業家の資金不足が課題となるのは何故でしょう。開業率低下の理由にしても、創業リスクが多い、競争の激化、創業資金の上昇等とあります。また、ベンチャー活動における問題点としても、敗者復活の社会的風土がない、あるいは起業家精神が低く大企業志向が強いという失敗を過剰に恐れる社会風土があるようです。
起業家のみなさんのお話しをうかがいますと、社会は華々しい成功に対しては一時的に英雄のように持ち上げるようですが、少しでも躓いたりすると途端に叩かれるそうです。もちろん一概にはいえませんが、ベンチャー経営者にとって社会的評価の凋落は、即資金面の困難に結びつきます。もし社会の背景の裏に成功者を妬むような雰囲気があるとしたら、そういう意識は改められるべきでしょう。そして起業家への尊敬も大切です。諸外国と比較すると、日本では事業を起こすことへの評価がどうも低いように思われます。ですから起業家を評価する社会風土の形成にも、皆様のご協力をぜひ賜りたいと思います。
包括的な創業・ベンチャーの支援策
創業・ベンチャーの支援策としては、大別すると「資金面での支援」と「人材、情報、技術等ソフト面での支援」があります(資料4)。「資金面での支援」には、直接金融と間接金融双方からの支援があります。
直接金融ではまず、(1)民間リスクマネー供給の「呼び水」となる政府機関からの出資の拡充が挙げられます。これは新商品開発等の事業開拓を行う企業に対して中小企業総合事業団が出資を行うものです。この仕組みは、民間のベンチャーキャピタルが業務執行組合員になって作られた中小企業等投資事業有限責任組合に対し、中小企業総合事業団が有限責任組合員として参加(出資)するというものです。これまではITや先端技術に取り組むベンチャー企業に出資するケースが多く見られましたが、最近ではバイオ産業等にも出資されるようになりました。
(2)成長新事業育成特別融資制度とは、中小企業金融公庫による融資制度です。融資なのに直接金融に分類したのは、6億円の融資限度額のうち1億2千万円までは無担保のワラント社債を引き受けることにより資金供給されるからです。また(3)中小企業の社債(私募債)発行に対する信用保証の付与制度の創設もあります。中小企業の資金調達の多様化促進のためにも、私募債の発行に際して信用保証協会から債務保証されます。(4)無議決権株式の発行要件の緩和もなされ、ベンチャー企業等が経営権確保のために、議決権のない株式発行要件が発行株式総数の3分の1から2分の1に引き上げられました。それに加え、(5)エンジェル税制対象企業も設立5年以内から10年以内に拡充され、株式譲渡益が生じた場合は4分の1まで圧縮可能となり、税制上の優遇がなされます。
一方、間接金融では融資・信用保証協会の債務保証が中心になります。(1)新規開業者向けのマル経融資では、1か月間の経営指導を受けるとか、勤務経験といって同じ業種の企業に勤務すれば550万円まで無担保・無保証の融資が可能です。(2)国民金融公庫の新規開業特別貸付は、創業準備者及び開業5年以内の者を対象に担保と保証がある場合に限り7200万円まで貸付可能という制度です。両者とも国民生活金融公庫が窓口となっています。(3)小規模企業等及び創業者のための使いやすい設備資金の無利子融資制度・設備リース制度、これは「旧中小企業の設備近代化資金等助成法」が改正され、小規模企業の創業者のための設備資金援助制度にリニューアルされたものです。設備資金の貸付・貸与に限定されますが、要件を満たせば無利子で融資が受けられます。(4)創業・ベンチャー向け債務保証もあります。創業準備者及び開業5年以内の者を対象に限度額2000万円まで債務保証されます。また、ベンチャー企業向けにも「創造法」「経営革新法」「産業再生法」認定企業等を対象に無担保で8000万円、担保有りでは2億円まで債務保証が受けられます。
創業意識を涵養する創業セミナーの開催
人材面での支援も整備されています。まず(1)ストックオプション制度の拡充です。ストックオプション付与上限を現行商法の10分の1から5分の1、3分の1に引き上げています。また、創業予定者を対象に (2)全国商工連合会・日商による新規開業応援セミナー・創業塾が創設され、年間数千人が無料で利用でき、今まで受講者の約3割が開業しています。(3)中小企業大学校の新規創業支援研修もあり、(4)創業意識の涵養ということでは、「創業・ベンチャー国民フォーラム」の開催を通じて、創業に関する国民理解を拡げるために地域フォーラムを全国展開する予定です。
技術開発面では、新事業の創出に繋がる技術開発のための補助金・委託費等を支援する「日本版SBIR制度」が拡充され、本年度の中小企業者への支出目標額は約180億円となりました。また、産学連携も推進され、地域コンソーシアム研究開発事業等により、地域における産学官の共同体制が強化されます。
もちろん経営支援も考慮されており、「中小企業支援法」に基づいて、以下の3つの支援センターが整備されています。株式公開をも視野に入れる中小企業を対象に、専門家による高度なアドバイス等の支援を総合的に展開する(1)中小企業・ベンチャー総合支援センター<全国8か所>、独自の地域性を発揮する中小企業を対象にする(2)都道府県等支援センター、それと創業者と経営向上を目指す中小企業を支援する(3)地域中小企業支援センター<全国約300か所>があります。これらの支援活動においても税理士・公認会計士の皆様がコンサルティングや専門派遣業務という要素で貢献される機会があるかと思います。
啓蒙、人材開発、計算公開の諸分野で職業会計人に期待
最後に、会計人の皆様に、創業・ベンチャー支援に関するお願いがあります。
1つは、創業・開業支援の重要性を再認識していただき、全国の経営者に意識改革の働きがけをして欲しいということです。
もう1つは、経営者の能力開発を創業・開業支援に絡ませ、起業家のやる気を喚起するような人作りに参画してもらいたいのです。人作りにはやはりプロの目利きが欠かせません。創業セミナー・創業塾においても、皆様の相談業務スキルや現場からの中小企業支援策をご提示してもらい、中小企業支援に関する法律認定の取捨選択等のアドバイスもいただければ幸いです。
さらには企業の育成を考えれば、ディスクロージャー(計算公開)は避けて通れない課題です。企業情報の公開により経営体質が強化され、企業の競争力が加味されます。平成13年の臨時国会に、商法は抜本改正の一貫として法案提出が予定されています。商法改正の議論の1つに商法の公告制度がありますが、商法第283条第3項には計算書類の公告の義務とあり、その公開手段は法第166条第4項の規定により官報や日刊紙を通じてのみとされていました。しかも中小会社はほとんど公告をしていません。そこで電子媒体を用いた公告、即ちインターネットによる計算公開を目下検討中です。情報公開は時代の潮流です。それにより信用が高まれば資金調達が活発になるのです。そういう時代の背景を踏まえた助言もこれからは必要だと思われます。
企業が育っていく素地というのが日本にはまだまだ乏しいような気がします。しかしこの度の制度改正や税理士・公認会計士の皆様のご支援をいただければ、創業の発展・拡大という成長の土台が徐々にできるのではないか。その積み重ねが開業率を18万から36万件にアップさせるポイントだと私どもは考えています。
【質疑応答】
特別講演終了後、わが国の創業支援・経営革新に関する中小企業政策について、小野氏と参加者全員による質疑応答が行われた。
――やはり中小企業は資金繰りが1番苦しい。しかし業務革新のためには研究開発費等の先行投資は欠かせません。このジレンマをどう解決すればいいのでしょうか。
小野 創業に関しては金融面での支援がまず第一です。創業にはリスクはつきもので担保を取るのは当然というのが通説ですが、その上でそれを軽減する措置を政府は模索しなければなりません。担保もなく経験が乏しいという創業者への融資、つまりしっかりしたビジネスプランがあれば資金援助がなされるという仕組み作りが肝要かと思います。
――苦心して製品を作ったのに、販売力も弱く在庫の山というケースもありますが。
小野 みなさん同じような悩みを抱えているようです。そこで1つ事例を紹介します。ある会社では生産開発の前段階からメール等で、自社の製品実績、可能な生産量、新製品開発コンセプト等を、潜在的なユーザーとなりそうな地元の有力企業に具申したそうです。その結果、ユーザー側との折衝を通じて、ビジネスプランのイメージが作成され、事前に適正な生産量を確定し、在庫対策が行えたそうです。
――創業が増えてもそれを上回る廃業率がある。10年後の自社の存続すら危惧されるいまの状況をどう判断すればいいのでしょうか。
小野 創業企業が10年後存続する割合は創業全体の3分の1くらいだといわれています。創業に伴い廃業も不可避的に増加するのも事実です。しかし社会全体における廃業の意味合いも考慮すべきです。小売店の廃業を一概に負の要素とするのではなく、新しい小売り形態への移行期と捉える視点も大切です。これからは事業目的ごとにビジネス目標を達成すれば企業組織は解体し、それにより資源の再配分がなされ、したがって企業形態も従来と変わる可能性もあります。事業承継も第二創業と認識すれば、事業承継は廃業であると同時に創業でもあるわけです。
しかし開業率と廃業率の逆転現象は改善されるべきでしょう。その上で開業が増え、それに応じて廃業も増えるなら、そこで求められるのは経営革新であり、企業の強化なのです。廃業の意味するものを理解した上で新たな展開を模索する。皆様にはそういったスタンスでまずは創業を支援していただきたいと思います。
――税理士業界の意見も中小企業政策にもっと反映してもらえるとありがたいのですが。
小野 仰る通りです。税理士・公認会計士の皆様は実力がありますし、創業支援には本当に頼りになる存在です。開業者数36万の目標達成のために皆様のご協力をいただければと思います。ぜひ皆様も中小企業庁に必要があればアプローチしてください。具体的な問題点があれば一緒に解決していきたいと思います。
(TKC出版 程田靖弘 )
(会報『TKC』平成13年11月号より転載)
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