■TKC会計人による支援体制

■創業支援の実際と最新情報

<寄稿>

創業支援の実際と最新事情

TKC南近畿会 今仲 清 会員

昭和26年生まれ。45年天王寺商業高校卒業。57年税理士試験合格。59年9月税理士事務所開業と同時にTKC入会。現在TKC南近畿研修所長、TKC全国会中央研修所税務情報システム研修小委員会委員長、TKC全国会巡回監査・書面添付推進委員会会員事務所支援小委員会委員を務める。

 これから創業しようとする起業家が、税理士に創業資金繰り計画や創業投資資金計画の策定と資金調達、記帳指導や人材採用、教育などの立ち上げ支援を求めるケースが増えている。そこで、TKC全国会巡回監査・書面添付推進委員会会員事務所支援小委員会委員の今仲清会員に、創業支援の要諦について寄稿いただいた。

はじめに

 創業者数が廃業者数を下回る事態となって数年経過した。低成長が続く中、経済活性化のためには米国がそうであるように起業家による創業が重要な役割を果たさなければならない時代となった。そのためには創業を支援し、一方で万一失敗しても何度もチャレンジできる敗者復活が可能な社会制度と環境づくりが求められており、徐々にその整備が進んできている。また政府も様々な創業支援策を講じて支援している。一方、ベンチャーブーム、リストラによる転業、会社分割やMBO(マネジメント・バイ・アウト)、脱サラや定年退職後の夢の実現のための創業など、創業する側のニーズも増えてきている。
 我々税理士・公認会計士もその相談を受ける機会が増加しており、その支援を積極的に行うことが社会的使命でもあるが、あらためて創業支援の際の留意点と最近の制度などをまとめてみることとする。

税理士・公認会計士の役割

 創業を目指して我々税理士・公認会計士に相談に訪れる人たちのほとんどが経営の素人であり、セオリーを知らない。非常に甘い考え方で創業をしようとしている人も少なくない。図表1にあるように「開業資金の準備」が圧倒的に苦労した点の1位に挙げられている。2位には「経営全般に必要な知識の蓄積」が挙げられ、その内訳は図表2のように「税務申告」「財務・経理処理」「顧客の開拓、マーケティング」となっている。
 創業しようとする人に対してその心構えが出来ているかどうか、最低限必要な知識、資金、何より意欲があるのかどうか、自身の強み・弱みを的確につかんでいるかをチェックし、それが不十分であれば時期を考え直すようにアドバイスすることも重要な役割である。

夢・理念の大切さ

 高度成長時代を経て豊かな社会が実現したこともあり、働くことが「食べるため」から「生き甲斐を求めて」「自己実現のため」に大きく変わっている。しかしその動機が「自分のため」ではなく「人の役に立ちたい、世の中のため」でなければ成功はおぼつかないし、何よりもその思いを実現しようとする燃えるような熱意がなければならない。
 そのためにも創業しようとする人とは、徹底的に会話を行い、それを通じて夢・理念をより明確にし、そのことを本人に強く認識させていく必要がある。

徹底したリサーチ

 具体的に行動へ移す前に、その業種や地域の現況について徹底してリサーチする必要がある。長い経験のある業種だからといって安易に開業立地を決めたり、売上予測を立ててはならない。一般小売業、サービス業の場合には商圏、人や車の流れ、人口(年齢構成)、同業他社の立地、その現況、価格の動向など様々な調査が必要になる。事業法人向けサービス業の場合には、従来のサービスと比較した優位性が、低価格や利便性、あるいは即時性なのか、などを調査することも必要となる。ここで得たデータが創業計画策定時の裏づけとなり、信頼性に影響し、ひいては資金調達にも影響することになる。  

創業計画(キャッシュ・フロー)

 創業できるかどうかを判断するためには創業後の売上、仕入、経費、人件費、必要生活費、借入返済のキャッシュ・フローが回るかどうかと、創業初期投資資金(当面の運転資金を含む)の調達が可能かどうかの二つの視点から検討する必要がある。
 キャッシュ・フロー面での判断に際しては、通常は月単位で生活費、返済額、税金、経費の四区分で必要資金を把握し、その総額を限界利益率で除して必要売上額を計算する。小売業や小売りサービス業の場合、必要売上額を一日単位で計算するとその確保が可能かどうかの判断をつけやすい。これとともにリサーチした結果と照らし合わせて開業するかどうかの判断をする必要がある。
 必要売上額の確保が可能かどうかは、次の創業初期投資資金計画とも関連してくるため、何度もシミュレーションをして判断することになる。ここでは費用は多めに見積もっておく必要があり、一方売上計画については通常のケース、最悪のケース、好調なケースなどを想定して、開業するかどうかの意思決定と、開業後の日々のチェックに生かすことになる。

創業初期投資資金計画

 事務所や店舗の確保を購入とするのか賃貸とするのか、その保証金や購入資金の確保、内装・設備・看板費用、設備・機械・機器、備品・消耗品費、当初広告費、人員募集費、当面の運転資金(業種によって異なるが3か月から1年分程度)、設備・機械・機器類は購入かリースか、など様々な初期投資が必要になり、その投資方法の判断が求められる。

資金調達

 創業初期投資資金の調達は次のような方法によることになる。できれば必要資金の50%程度は自己資金で賄いたいものであるが、現実には10−20%程度にとどまることが多い。
(1)自己資金・・・退職金や過去の蓄積による。
(2)家族・友人等・・・甘えにつながる可能性が高い。
(3)投資ファンド・・・エンジェルとも言うが、将来株式が公開されることを前提にして投資家がベンチャー企業に投資する。
   有望な技術やノウハウがあって、しっかりした経営計画が確立していることが前提。
(4)制度融資・・・国、地方公共団体等が中小企業の創業に際して無担保無保証人で融資をする制度。
(5)政府系金融機関・・・創業者にとっては国民生活金融公庫が身近であるが、中小企業金融公庫や商工組合中央金庫などの
   政府系金融機関でも創業時融資の対応をしてくれる。
(6)民間金融機関・・・現実的には創業時の融資に応じてくれる民間金融機関としては信用金庫や信用組合になる。
(7)創業者補助金制度・・・国や地方公共団体は、特定の法律に基づいて創業者向け補助金制度を設けているケースがある。
   これには当然のことながら有望な技術やノウハウを背景にした綿密な創業事業計画書の提出が必要になる。
 いずれにしても綿密な創業投資資金計画や創業資金繰り計画書、創業者の熱意とすばらしい理念に基づいた資金調達の努力が必要である。

継続MASによる創業事業計画策定

 創業投資資金計画や創業資金繰り計画の策定のシミュレーションを繰り返して行ううえで、従来対応するシステムがなかった。今回、TKC継続MASシステムの中に「創業事業計画策定システム」が組み込まれて提供されることになり、従来に増して綿密な計画策定が容易になった。
 実際、開業立地一つをとってもより有利な立地を確保するために様々な場所を考慮比較検討する必要があり、その都度シミュレーションを創業投資資金計画と創業資金繰り計画の双方について繰り返す必要がある。
 このシステムを徹底活用して創業支援を行えば、資金調達支援からその後の実際データに基づく経営指導までより精度の高い指導が可能となる。

撤退分岐点を明確に

 創業してしまうと多少計画より実際の状況や数字が悪くとも、もう少し頑張れば何とかなると思いたいものでもあるし、実際そのようにしてずるずると追加借入をして気がついたら借金まみれでどうしようもなくなっていたというケースが散見される。
 我々の果たすべき役割の中でも重要なのが、創業時に撤退分岐点を明確にしておくことが挙げられる。創業資金繰り計画で最悪のケースを想定し、実際に死にものぐるいであらゆる手段を講じても経営状態が改善できず、当初の投資金額の返済すら困難になれば後は撤退するしかないわけで、その意味で撤退分岐点をあらかじめ明確に提示しておき、「そうならないためにも当初から徹底した工夫と実行をしよう」と指導することが必要である。
 不幸にしてそのような事態に至ったときには強く撤退をすすめ、傷口を広げないことが重要である。

創業等を支援する法制度

 平成11年に中小企業基本法が大きく変わり、「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」という基本理念のもと、「経営革新、創業促進」「経営基盤強化」「セーフティネットの整備」を重点政策として、具体的な法的支援が展開されている。
 次のような法律に基づく様々な助成・支援制度があり、これらを積極的に活用して創業者支援を行うことも重要である。
(1)新事業創出促進法
 新事業の創出につながる新技術の開発に資するべく、国等からの補助金・委託費の増大に努め、その研究成果の事業化を支援したり、必要資金の債務保証枠の拡大などの支援措置を設けている法律。具体的支援対象の例としては次のようなものがある。
(イ)創業に焦点を当てた支援(個人の創業及び分社化)
(ロ)中小企業者の新技術を利用した事業活動の支援(日本版SBIR<Small Business Innovation Research>中小企業技術革新制度・国等の予算から
 基本方針に照らして適切な内容と指定された場合、及びその研究成果を事業化する場合)
(ハ)地域における産業資源の有効活用
(ニ)株式公開型ベンチャー企業支援
(2)中小企業創造活動促進法
 創業5年未満の製造業・印刷業・ソフトウエア、及び試験研究を積極的に行う企業(対売上高3%超)を支援する法律。具体的支援対象の内容は次の通り。
(イ)地域活性化創造技術研究開発費補助金(経費の一部補助)
(ロ)設備投資減税(機械装置の7%税額控除または30%特別償却)
(ハ)エンジェル税制(個人投資家の株式譲渡益の圧縮または損失の繰越)
(ニ)欠損金の繰越期間の延長(一般企業5年を年に)
(3)中小企業経営革新支援法
 この法律は既存企業がその付加価値の増大を支援するために設けられており、創業そのものは対象とならないが、分社を通じて革新的新事業創出を行う場合には適用対象となるため、注目しておく必要がある。

創業支援はTKC会計人の社会的使命

 廃業者数が創業者数を上回る状況は今も続いている。構造改革の道半ばの現状においてはまだまだ厳しい状況が続くことは間違いない。中小企業の経営支援に日夜努力している我々TKC会計人は、一方でこれから創業しようとしている起業家の方々に、創業資金繰り計画や創業投資資金計画の策定と資金調達、記帳指導をはじめ、人材確保からその教育等の立ち上げ支援をすることも重要な社会的使命といえよう。幸いTKC継続MASシステムの中に「創業事業計画策定システム」が組み込まれ、内容がより一層充実した。またTKC出版からは『Q&A創業の基礎知識から信頼される創業計画づくりまで』が刊行された。
 いま我々はこれらを徹底活用し、これから創業しようとする起業者の方々を強力に支援することが求められている役割の一つといえよう。

会報『TKC』平成13年6月号より転載