■オピニオン

 地域密着型金融における税理士の役割は大きい

伊藤達也内閣府特命担当大臣 内閣府特命担当大臣(金融担当) 伊藤達也氏に聞く
 インタビュアー
  会報『TKC』編集長 高橋湞夫
  TKC全国会事務局長 髙田順三

 金融庁は3月末、中小・地域金融機関に向けた「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」を公表した。これは、今後2年間の地域金融の具体的な取り組みを示したもので、これまでの「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を承継し、拡充するものである。伊藤達也内閣府特命担当大臣(金融担当)は、新たなアクションプログラムに基づく地域密着型金融の推進において、「税理士の果たす役割は極めて大きい」と期待を寄せた。

安定重視から活力重視の金融行政へ

 ――昨年12月、金融庁から「金融改革プログラム―金融サービス立国への挑戦―」が公表され、5つの視点からなる改革の方針が示されました。そしてこの3月29日には、今後2年間の金融行政の具体的な進め方を示す「工程表」も公表されました。そうした一連の大きな流れの背景から教えてください。

 伊藤 金融行政はこれまで、平成14年10月に策定した「金融再生プログラム」などに基づいて、不良債権問題への緊急対応に取り組んできました。しかし、今日、わが国の金融システムを巡る局面は、大きく変化してきています。というのも、この間、不良債権問題は正常化に向けて着実に進展し、各金融機関も前向きな取り組みに力を入れ始めているからです。現に、主要行に関して、平成14年3月期の不良債権比率は8.4%であったのに対し、16年9月期にはこれが4.7%に低下しています。
 このことからも分かるように、金融システムを巡る局面は、不良債権問題への緊急対応から脱却し、将来の望ましい金融システムを目指す未来志向の局面へと転換しつつあります。つまり、「金融システムの安定」を重視した金融行政から、「金融システムの活力」を重視した金融行政へ転換すべき局面に入ったといえます。
 一方、日本経済全体に目を転じてみると、経済社会のグローバル化や高齢化、IT化が一層進展する中で、インターネット取引の比重が高まるなど社会経済の構造が大きく変化してきています。また、こうした環境変化の中で、多様化する利用者の方々のニーズに応じた金融商品やサービスが開発、提供されることも強く望まれるようになってきました。
 以上のような金融システムを巡る局面の転換や日本経済の環境変化を踏まえ、構造改革を支えるより強固な金融システムを構築するという観点から、金融行政が今後2年間に亘る「重点強化期間」(平成17〜18年度)に実行すべき改革の道筋について取りまとめたものが、「金融改革プログラム」です。
 そして今回、公表された本プログラムの「工程表」に沿って、この4月から具体的な施策が展開されることになります。

 ――「金融改革プログラム」が目指しているものは、一言でいうと何でしょう。

 伊藤 それは、利用者の方々が、いつでも、どこでも、誰でも、適正な価格で、良質で多様な金融商品にアクセスできるような金融システムを構築すること、すなわち「金融サービス立国」を、「官」の主導ではなく「民」の力によって実現することです。
 こうした「金融サービス立国」を実現するに当たり、「金融改革プログラム」では、冒頭にご指摘があった通り、次の5つの視点に立って、今後進めるべき改革の内容を整理しています。
(1) 民の活力を引き出し、利用者利便を向上させるための制度設計と利用者保護ルールの整備・徹底
(2) ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備
(3) 国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化
(4) 活力ある地域社会の実現に寄与する金融システムの構築
(5) 市場規律を補完する信頼される金融行政の確立

「推進計画」の提出・公表を地域金融機関に要請

 ――今回、「工程表」と併せて、中小・地域金融機関に向けた「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」(以下「新アクションプログラム」という)も、新たに公表されました。その経緯をお聞かせください。

新アクションプログラムの概要 伊藤 「金融改革プログラム」における諸施策のうち、地域金融については、「活力ある地域社会の実現を目指し、競争的環境の下で地域の再生・活性化、地域における起業支援など中小企業金融の円滑化及び中小・地域金融機関の経営力強化を促す観点から、関係省庁との連携及び財務局の機能の活用を図りつつ、地域密着型金融の一層の推進を図る」こととしています。
 私どもは、これまでも、平成15年3月に公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、中小企業の再生と地域経済の活性化を図ることにより、同時に不良債権問題の解決を目指してきました。そして、今後2年間の「重点強化期間」において、これまでの実績を評価した上で、更にこれを拡充、進化した取り組みとするために、今回、「新アクションプログラム」を策定、公表したところです。(右掲
「新アクションプログラムの概要」参照)。

 ――「新アクションプログラム」では、中小・地域金融機関に対して、何を求めるのでしょうか。

 伊藤 地域密着型金融の一層の推進という観点から、各金融機関が地域の特性や利用者の方々のニーズ等を踏まえ、「選択と集中」により、「新アクションプログラム」に基づく施策の推進を図っていくことを求めていくことになります。

 ――具体的には、どのような推進体制で取り組まれるのですか。

 伊藤 「新アクションプログラム」に基づき、平成18年度までの「重点強化期間」内に地域密着型金融の機能強化を確実に図るため、各金融機関に対し、17年8月末を期限として、「地域密着型金融推進計画」(計画期間17〜18年度)を策定、公表することを要請します。
 資料にもある通り、具体的には各金融機関は同計画に沿って、
 1.事業再生・中小企業金融の円滑化
 2.経営力の強化
 3.地域の利用者の利便性向上

 を図ってゆくことになります。
 なお、各金融機関は、同計画の策定に当たり、地域の特性等を踏まえた個性的なものとするとともに、地域密着型金融の推進により、目指すべき姿が地域の利用者の方々に十分理解されるよう、自らの経営判断のもとで、可能な限り、数値的な目標を含む、具体的で分かりやすい目標を盛り込むよう努めていただくことになります。
 金融庁としては、各金融機関に対し、17年8月末までに、策定した計画について報告を求めるとともに、以後、半期毎に同計画の進捗状況の報告を求め、そのフォローアップを行います。フォローアップに当たっては、可能な限り、金融機関の自主性を尊重するとともに、地域経済の特性に配慮することとし、画一的な基準による評価とならないよう留意していきます。

正確な財務諸表作成による
地域金融円滑化の支援を


 ――ご説明いただいた具体的な取り組みのうち、中小企業と、その中小企業を主な顧客とする職業会計人に最も影響があるのは、「1.事業再生・中小企業金融の円滑化」だと思います。その中の6つの項目のうち、「(4)担保・保証に過度に依存しない融資の推進等」とあるのが注目されますが、その内容を教えてくださいますか。

 伊藤 ここでは、各金融機関に対する要請事項として、「事業からのキャッシュフローを重視し、担保・保証に過度に依存しない融資の促進を図るため、企業の将来性や技術力を的確に評価するための取組みを強化する」ことや、「『民法の一部を改正する法律』(平成16年法律第147号)の施行を踏まえ、既存の包括根保証契約について、制度改正の趣旨を踏まえた適切な見直しを行うとともに、第三者保証の利用に当たっては、過度なものとならないよう要請する」こと、更に「中小企業の資金調達手法の多様化等に向けた取組み等を推進するよう要請する」ことなどを明記しています。

 ――本日(3月31日)の日本経済新聞朝刊の広告にもあるように、TKC会員は、中小企業に対して月次巡回監査を実施し、精度の高い財務諸表の作成に力を注ぐなど、地域金融の円滑化に資する経営革新支援等の運動を全国規模で展開しています。

 伊藤 過度に担保・保証に依存しない金融商品を金融機関が開発し、それを利用者の方々に利用していただくためにも、TKC会員をはじめとする税理士の先生方のお力というのは、非常に大きいと思います。
 というのも、先生方が関与されて作成した財務諸表というのは、金融機関側から見ると、やはり非常に正確性が高く、信頼に値するものだからです。それは、中小企業の信用度を高めることにも寄与しています。
 また、金融機関にとっては、債務者たる中小企業の経営改善を図っていくことも、地域密着型金融の推進という観点から非常に重要な役割の一つとなりますが、この点についても、各地域の税理士の先生方との連携を通じて経営改善に積極的に取り組まれていることを、私どもも良く承知しています。このことは、各金融機関から提出された「リレーションシップバンキングの機能強化計画の進捗状況」の報告内容を見ても明らかです。
 そういう意味でも、これまでのリレーションシップバンキングの機能強化へのご支援と同様に、「新アクションプログラム」に基づく地域密着型金融の推進に関しても、先生方の果たす役割は極めて大きく、その活躍が期待されるところです。

伊藤達也 内閣府特命担当大臣(中央)

ディスクロージャー制度の
信頼性を高めるために


 ――ところで、話は変わりますが、西武鉄道による有価証券報告書の虚偽表示問題を契機とした証券市場における昨年来の諸問題を受けて、「証券取引法の一部を改正する法律案」が3月11日に閣議決定され、同日、国会にも提出されましたが。

 伊藤 ご指摘の通り、残念ながら昨年の10月以来、西武鉄道をはじめとした不適切な事例が相次いでいます。こうしたことは、ディスクロージャー制度に対する信頼を揺るがしかねない問題ですので、私どもとしては、信頼性を確保していくために、昨年11月と12月にその対応策を発表したところです。
 今後は、ディスクロージャー制度の信頼性を確保するためにも、ここに盛り込まれた諸施策の一つ一つを強力に推進していかなければなりません。
 いずれにしても、「証券取引法の一部を改正する法律案」では、(1)上場会社の親会社に対する情報開示の義務づけ(ディスクロージャー制度の信頼性の確保)、(2)公開買付(TOB)規制の適用範囲の見直し(公開買付制度の信頼性の確保)、(3)外国会社等の英文による企業情報の開示(わが国証券市場の国際化・競争力の向上)――を盛り込んでいますので、今国会での審議を経て、早期成立を目指したいと思っています。

 ――そのことに関連して、私どもが非常に良かったと思うのは、東京証券取引所が、上場企業に対して情報の適時開示と決算書の正確性に関する「確認書」だけではなく、社内管理体制を含めた「宣誓書」を企業経営者に求めた点です。TKC全国会の故飯塚毅名誉会長は、40年近くも前からその必要性を強く主張されていました。「自社が作った財務諸表は誓って正しい」ということを、経営者自身に宣言させねばならないと……。

 伊藤 そういう意味では、やはりディスクロージャー制度に対する信頼性を高めていくためには、まず開示企業において、正確な財務諸表が作成されるということが非常に重要となってきます。
 また、その監査に当たる公認会計士の方々、市場開設者、そして行政が、それぞれの役割というものをしっかりと果たしながら、その使命を自覚して誠実に対応していくことが重要です。そうすることで、財務諸表の信頼性が確固たるものになっていくと考えていますので、そうした努力をこれからも続けていかなければなりません。

 ――これは、伊藤大臣の所管ではありませんが、会社法制の現代化の一環として、商法改正における「会計参与制度」の創設も目前に迫っています。ご承知の通り、この制度は、税理士又は公認会計士が会計参与として、企業の取締役と共同で計算書類の信頼性を高めていくためのものです。このことについて、大臣の所感をお聞かせください。

 伊藤 そうした新たな制度が導入されることによって、コーポレートガバナンス全体も向上していくことになるでしょうし、専門的識見のある税理士、公認会計士の先生方のアドバイスや助言というものが、企業の正確な財務諸表を作成していくことに、これは間違いなくつながっていくだろうと思います。

正確な財務諸表作成は
金利等の優遇にも繋がる


 ――記帳条件の明確化や会計参与制度創設を含め、近年、税理士の社会的役割が一層高まってきたと思います。金融行政において大臣は、税理士に何を期待されますか。

 伊藤 実は昨年から、中小企業金融の実態を把握するために、各財務局において、「中小企業金融懇話会」を設置しています。これには、税理士会からもご参加いただいて、率直なご意見を頂戴し、私どもの施策に反映しています。このように、税理士の先生方には、金融行政の発展に向けて、その役割を担っていただいているところです。
 また、TKC会員の先生方におかれては、単に税務代理あるいは税務書類の作成に止まらず、とても意義のある仕事をなさっていると思います。先ほども少しお話ししましたが、先生方が関与される中で、適正な財務諸表が作成されるということは、金融機関の融資審査においても、その企業の信用度を高めていくことにつながっているわけです。
 そうした意味からも、先生方は、中小企業にとって頼りがいのある、良きアドバイザーであり、先生方が活躍されることで、地域経済も活性化していくと思っています。

 ――今後、適正な財務諸表を作成する中小企業については、金融機関を通じて何らかのインセンティブが感じられるような、メリハリのある施策を講じていただきたいと、私どもは切に願っています。

 伊藤 金融機関にとっても、いままで不良債権問題が大きな足枷となっていたわけですが、その足枷がはずれていく中で、今まで以上に利用者の方々のニーズに応えていこうとしています。そうした状況のもとで、中小企業金融の円滑化を図っていくためには、金融機関が目利きの能力を上げると同時に、審査に当たってそこに正確な計算書類あるいは財務諸表が提出されるということであれば、審査期間も短縮されるでしょうし、金利上の優遇処置を講じるなど、魅力的な金融商品を作っていくことにもつながってくると思います。
  そうした観点からも、やはり先生方の果たす役割というのは、非常に大きいと思います。


伊藤達也(いとう・たつや)氏 プロフィール

昭和36年東京生まれ。59年慶應義塾大学法学部卒業後、(財)松下政経塾第5期生として入塾。平成5年東京11区より衆議院初当選(現在4期目)。通商産業政務次官、自由民主党経済産業部会長、内閣府副大臣(金融・経済財政政策担当)などを歴任後、16年内閣府特命担当大臣(金融担当)に就任。好きな言葉は「成功の要諦は成功するまで続ける所にある」。

(構成/TKC出版 古市 学)

(会報『TKC』平成17年5月号より転載)