オピニオン

 書面添付制度は税理士法第1条の具現化である

 国税庁長官 大武健一郎氏に聞く

  インタビュアー
大武健一郎国税庁長官  会報『TKC』編集長 高橋湞夫
  TKC全国会事務局長 髙田順三


 国税庁によれば、税理士法第33条の2の書面添付件数は10万4千件(平成16年9月末付)に達し、社会に定着しつつある。一方、e‐Japan戦略に基づく電子申告制度も、昨年6月の全国拡大から、はや半年が経過した。税理士の社会的役割が高まる中、平成17年の年頭に際し、大武健一郎国税庁長官にインタビューをお願いした。大武長官は「税理士法第1条の税理士の公共的使命を具現化した書面添付制度を一緒に育てていきたい」と語り、さらに電子申告制度の普及やNPO法人の支援等に税理士の協力を求めた。

税理士法第1条の公共的使命を
今まで以上に果たしてほしい

 ――私はこれまでに何度か大武長官のご講演をお聴きしております。その中で大武長官は、税理士法第1条に関連して税理士の「公共的使命」という話をよくされます。ところが、法第1条の条文には、そうした直接的な表現はありません。大武長官は、どんな思いを込めて、公共的使命とおっしゃっているのかを、まずお伺いしたいのですが。


 大武 それは、当時の飯塚毅TKC全国会会長と福田幸弘大蔵省審議官(元国税庁長官)のお二人のご尽力により、昭和55年の税理士法改正において、法第1条に「独立した公正な立場」という文言が盛り込まれたことが出発点になっております。
 税理士の皆様は、国税当局からも、納税者からも、独立した公正な立場にたって、納税者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ることが課されております。憲法に規定された義務であることからも、まさにこれは公共的使命そのものです。私は日本の税理士とは、ある意味で検事でも弁護士でもなく、裁判官の補佐人のような性格を有していると考えております。
 ただし、その一方で、税務書類の作成などの税理士業務を行えるのは、有償・無償を問わず、税理士の皆様に限られております。すなわち、無償独占という強い権利を付与されているわけです。したがって、税理士の皆様にはこの公共的使命と責務とを十分ご認識いただき、これまで以上にきちっとした申告書及び税理士法第33条の2の書面を作成していただくとともに、税務援助などにも積極的にご協力いただきたいと思います。

 ――私は55年の税理士法改正のとき、飯塚会長の鞄持ちをしておりまして、福田審議官のところにご一緒したり、自民党朝食会における飯塚会長の福田審議官への公開質疑にも同席しておりました。福田審議官は、資料を風呂敷に包んで持ち歩いておられたのが印象に残っています。

 大武 風呂敷を使うのは私も一緒です(笑)。私は、その朝食会のことは知りませんが、ご本人から55年の税理士法改正の経緯をよく聞かされておりました。

 ――大武長官は、平成13年の税理士法改正において、規制緩和やアメリカンスタンダードの潮流の中、国税庁次長として税理士法第1条の堅持及び書面添付制度等の拡充にご尽力されたわけですが、55年の改正がなければ、今日ほどの社会的期待が税理士に集まることはなかったのではないでしょうか。

 大武 全くその通りだと思います。ですから、去る11月中旬にオーストラリアで開催された、アジア税務長官会議においても、私は、日本の税理士制度、税理士法第1条の使命、税理士法第33条の2の書面添付制度を紹介するとともに、できるだけ多くの国で税理士制度を検討されてはどうですかと勧めてきました。
 翻って今、日本の税務行政を取り巻く環境は、経済のグローバル化、高度情報化の進展、行政の更なる透明性の要請など大きく変化しており、また、年金課税や消費税法改正に伴う申告者数の増加など、国税の事務量は増大しているにもかかわらず、税務職員の定員は平成10年から7年連続して減少しています。我々としても、限られた人員と予算の下で、税務行政の水準を維持・向上させ的確に業務を遂行していくため、事務運営を不断に見直し、その簡素化・合理化に努めているところでありますが、現実的にはなかなか厳しい状況にあります。
 そうした状況の下、適正・公平な課税の実現のためには、税務当局の努力に加え、税理士の皆様のお力に負うところが極めて大きなものとなっております。是非とも税理士の皆様には、税理士法第1条に明記された公共的使命を今まで以上に果たしていただき、税理士法第33条の2の書面添付がされている申告書については調査が不要であるというような、実績を積み上げていただきたいと願っております。

税理士と協力して書面添付制度を育てたい

 
――その書面添付制度を実際に推進、育成していくには、どのような取り組みが必要でしょうか。

 大武 税理士法における書面添付制度は、いわば税理士法第1条の税理士の公共的使命を具現化したものといえます。平成13年の税理士法改正においては、これを、より明確な制度とし、税理士の皆様方の社会的立場を高めるとともに、税務執行の一層の円滑化・簡素化を図るため、意見聴取制度の拡充を行ったものです。
 このいわゆる新書面添付制度の趣旨が十分活かされるよう、国税当局としても、申告書に添付された書面を尊重し、申告書の審理や調査の要否の判断などにおいて、書面や意見聴取の機会を積極的に活用するなど、適正な運用に努めているところです。
 今後、本制度を実効性のある形で育成していくためには、国税当局はもとより、税理士の皆様方におかれても、制度の趣旨及び考え方を十分に理解し、制度を推進していくとの認識に立ち、書面の記載内容を充実させるとともに、積極的に意見陳述を行っていただくことが重要であると考えています。
 このためには、国税当局と税理士会の双方による真摯な協議が必要であり、今後とも各国税局と各税理士会との間で書面の記載内容の充実策等について、実務者レベルを中心に積極的に協議を行うなど、両者が協力して制度を育てていきたいと考えています。
 
 ――TKC全国会としての書面添付推進運動は、昭和56年6月9日に行われた磯邊律男元国税庁長官によるTKC千葉計算センター(現SCGサービスセンター)開設記念講演が発端となり、現在に至っています。

 大武 TKC全国会におかれては、これまでも書面添付の推進に熱心に取り組んでこられたと承知しております。
 ちなみに、全国で平成15年7月から16年6月までの間に提出された法人税申告書への書面の添付件数を申し上げると約10万4千件、税理士関与のある申告件数が約236万7千件であることから、書面の添付割合は約4.4%となっております。
 また、TKC会員の皆様が同時期に法人税申告書に添付された書面の件数は約6万1千件と聞いており、全体に占める割合は、約6割程度となっていることを考えると、TKC会員の皆様の果たす役割は非常に大きいと思っております。

 ――我々TKC会員が書面添付を実施するに当たり、留意すべきことは何ですか。

 大武 TKC会員の皆様が添付された書面は、例えば、主な勘定科目ごとに計算し整理した事項を具体的に記載してあるなど本制度の趣旨に沿った書面を添付いただいており、大変心強く思っておりますが、その一方で、関与先納税者の売上高推移などのデータは添付されているものの、申告書の作成に当たって計算し整理した事項等について具体的な記載がないものなど、記載内容が不十分なものも見受けられます。今後とも、記載内容の充実について十分配意していただきたいと思います。
 常日頃から職員にも話していることですが、善良な納税者には親切に対応する一方、悪質な納税者に対しては厳正な態度で臨んでいく必要があります。これを書面添付との関係で申しますと、税理士法第1条の精神に則って添付された法第33条の2の書面については、税務行政側としてはこれを尊重し、一方で、今のところ、そのような例はないようですが、添付する書面に虚偽の記載をした場合には、懲戒処分等により厳しく対処していくことになります。
 信頼される税理士制度、さらには信頼される税務行政を育てていくため、税理士の皆様におかれましては、今後とも引き続き、本制度の育成にご協力をお願いいたします。

消費税課税事業者への対応を
当面の最重点課題として実施


 ――ところで、平成15年度の税制改正で消費税の事業者免税点制度の適用上限を1千万円に引き下げるなどの改正が行われ、本年1月から新たに課税事業者となる個人事業者の方の課税期間がスタートしました。この点についてはいかがですか。

 大武 消費税の新規課税事業者の方々には、改正内容を十分に理解していただくとともに、この1月から記帳や書類の保存を行っていただく必要があることから、国税当局においては、最重点課題の1つとして、税理士の皆様や関係民間団体、地方団体などのご協力をいただきながら、広報・相談・指導といった各種施策を重層的に実施しているところです。

 ――具体的にはどんな対応を重点的に実施されるのでしょう。

 大武 今後も、新規課税事業者の方々に適正な申告と期限内納付を行っていただけるよう、

(1) これまで接触できなかった新規課税事業者の方々を中心に、確定申告前の説明会等を利用して、必要に応じて記帳の仕方の説明や指導機関の紹介等を実施する、
(2) 新規課税事業者の方々に対して、納税資金の積立や振替納税の勧奨といった指導を実施する、
(3) 潜在的な課税事業者を把握し、適切な指導を実施する、

 といった各種の施策に国税当局の総力を挙げて取り組んでいきたいと考えておりますので、TKC会員の皆様におかれましてもご協力をよろしくお願いいたします。
 また、消費税の新規課税事業者のうち、税理士の皆様が関与している方の消費税課税事業者届出書の提出割合が低いという声も聞きます。日本税理士会連合会の会報紙でもお願いしましたが、既に課税期間が開始しているところであり、速やかに提出されるようお願いいたします。

電子申告の普及は税理士の重要な業務の一つ

 ――ついに電子申告制度が開始されました。その普及策を教えていただけますか。

 大武 おっしゃるとおり、国税庁では、国税電子申告・納税システム(e‐Tax)を、昨年6月に全国に導入しました。本年も、昨年に引き続きe‐Taxの更なる普及に向けて、新聞、テレビ、ホームページなどによる幅広い広報に取り組んでまいります。
 この他、納税者の方々と接触を図ることができる各種説明会等において、e‐Taxの利用を呼び掛けるとともに、地方公共団体、税理士会及び関係民間団体等に、e‐Tax普及への理解と協力を求めるなど、納税者の態様に応じた広報にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
 また、本年も利用者満足度(CS)アンケート調査を実施し、アンケート結果で改善の要望が多い事項については、対応可能なところから機能改善等を図り、更なる利便性の向上に努めていきたいと考えています。
 e‐Taxの受付時間については、昨年11月に月曜日から金曜日の午前9時から午後9時に拡大したところです。
 なお、本年の確定申告期においては、月曜日から金曜日は午前9時から午後11時に拡大し、さらに、日曜日も午前9時から午後9時まで受付を行うことを予定しており、e‐Taxを利用される方にとって、利便性は大幅に向上するものと考えています。
 国税庁としては、e‐Taxは納税者利便の向上の観点から大変重要な施策と考えており、その更なる普及・定着に取り組んでいるところですが、一方、税理士の皆様にとっても納税者の方々がe‐Taxの利便性を十分に享受できるような環境を提供していただくことは、税理士の重要な業務の一つであると考えています。

 ――TKC全国会では「電子申告推進プロジェクト」を発足しており、1.電子申告推進率60%超体制の実現、2.電子申告推進事務所5千件の実現(平成17年5月末)という目標に向けて、会を挙げて取り組んでいるところです。

 大武 TKC会員の皆様方におかれましては、e‐Taxの趣旨を理解いただき積極的に取り組んでいただいているところですが、引き続き普及に向けて一層のご協力をお願いしたいと思います。

企業ドクターとしての役割が益々重要になってくる

 ――書面添付や電子申告推進の他、大武長官が我々税理士に期待されていることをお聞かせください。

 大武 税理士の皆様は、個人事業者に加え、中小企業の税務申告を主な業務としておられる方が多いと思います。これからは、それだけに止まらず、もうすでに実践しておられる方もいらっしゃるとは思いますが、関与先企業の総合的な支援、信頼関係の醸成、さらには職域拡大といったような意味からも、次の2点をお願いいたします。
 1点目は、関与先企業に勤める従業員の税務相談です。
 税理士の皆様は、関与している企業そのものの税務申告とともに、その経営者の税務相談もやっておられることと思います。これに加えて、関与先企業に勤める従業員の税務相談についても、是非ともお願いしたいと思います。
 具体的には、医療費控除や住宅取得控除の申告、さらには、昨年の税制改正による相続税・贈与税の一体化に伴う相続時精算課税制度等の相談などになると思います。この効果としては、先ほどもお話ししましたように、関与先企業との信頼関係の醸成、職域拡大といったような意味もありますが、経営者の言われていること、そこで働いている人たちが企業をどのように見ているかを理解することができます。これからの変化の時代、量から質の時代にあって、税理士の皆様の果たす役割は、いわば企業ドクターとして、益々重要になってくると思います。
 2点目は、間接金融の仲立ちです。
 最近、金融機関が借り手企業との間で親密な関係を長く維持することにより、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て融資を実行するという「リレーションシップバンキング」という言葉をよく耳にします。
 金融機関の融資に関して、金融機関と提携して、(1)日本税理士会連合会においては、「中小会社会計基準適用に関するチェック・リスト」を活用した無担保融資商品を、(2)TKC全国会においては、税理士法第33条の2の書面添付実践先は金利優遇措置が適用されるといった「TKC戦略経営者ローン」を、推進していると聞いております。

 ――近年、TKC会員と金融機関との交流が全国的に活発化し、その成果として「TKC戦略経営者ローン」を提供する金融機関は現在、50行に拡大しています。

 大武 中小企業の経理状態について一番よくご存知なのは、常日頃から継続的に関与されている税理士さんということになります。そこで、是非とも、チェック・リストや書面添付などによる中小企業の会計の質の向上を通じて、間接金融の仲立ちをしていただきたいと思います。

NPO法人の助言等公益的業務にも参画を

 ――大武長官は、かねてからNPO法人の経理アドバイザーとしての役割も税理士に期待したいとおっしゃっていますが。

 大武 日本税理士会連合会の平成16年度事業計画では「地方公共団体等の外部監査制度、地方独立行政法人の監事制度、成年後見制度及びNPO法人の税務・会計アドバイザー等の公益的業務について積極的に参画し、社会貢献に努める」とされております。この、公益的業務への参画についても、少しお話ししたいと思います。
 まずは、今ご指摘のあった通り、NPO法人の経理アドバイザーについてです。
 NPO法人が行う民間非営利活動は、活力ある経済社会を構築していく上で、大きな役割を果たしていくことが期待されます。このような観点から、NPO税制につきましては、平成15年度税制改正におきまして、パブリック・サポート・テスト(広く一般からの支援を受けているかどうかを測るため、総収入金額のうち受入寄附金総額の占める割合を規定したもの)の割合の引き下げ(1/3以上→1/5以上)等、優遇措置の対象となる認定NPO法人の要件の緩和をはじめとする大幅な見直しを行ったところであります。
 平成16年11月末現在、設立認証を受けたNPO法人数は約2万法人、これに対して認定NPO法人は26法人となっています。
 認定NPO法人が少ない理由としては、経理についての知識や実務面の理解不足があり、これを支援するスキームやバックアップ体制がまだ不十分であることなどが考えられます。
 こうした実情に鑑みれば、我が国の経済社会を多様な面から支援するNPO法人の裾野の拡大は必要であり、NPO法人における経理面での充実を図ることを税理士の社会的使命の一環として考えていただく必要があると思います。
 日本税理士会連合会において、この度『税理士のためのNPO法人テキスト』を発行し、全国の税理士会や支部において、研修会等を開催して積極的に取り組んでいこうとされております。
 国税庁としても、研修会への講師の派遣や、認定NPO法人申請に向けて事前相談に訪れたNPO法人が記帳指導等、税理士の関与を希望する場合には税理士会支部を紹介するなど、協力していきたいと考えておりますので、これからの新しい経済活動の芽であるNPO法人を、税理士の皆様の手で育てていただきたいと思います。 
 他にも、公益的業務として、地方公共団体等の外部監査制度、特定調停制度、新たに導入された地方独立行政法人の監事制度、成年後見制度などについて積極的に参画されていると聞いております。税理士の皆様には、国民の皆様の最も身近にいる資格士業者として、これらの業務を通じて、今まで以上に頼りとされる存在になることを期待しております。

大武健一郎(おおたけ・けんいちろう)氏 プロフィール

昭和21年東京生まれ。45年東京大学経済学部卒業後、大蔵省入省。同主税局税制第一課長、同総務課長、大阪国税局長等を歴任。平成13年税理士法改正では、規制緩和・アメリカンスタンダードの潮流の中、国税庁次長として税理士法第1条の堅持、及び書面添付制度等の拡充に尽力する。13年7月財務省主税局長、16年7月国税庁長官に就任。

(会報『TKC』平成17年1月号より転載)