■戦略の公理的構造とTKC文化制度

TKC全国会会長 武田隆二

1.戦略の構造

「戦略」の定義

  21世紀は、「戦略の時代」だといわれる。
戦略」とは、意思決定者がそのおかれている「場」の局面に対応して、適切な行動をとるスキーム(企画)として定義しておきたい。従って、戦略は「状況関連的な適応行動計画」を意味するものとして端的に表現できるであろう。
 それは、状況に応じた「ソフトな行動的対応」により、目的を達成するためのスキームであるといってよい。

「ソフト構造」と「ハード構造」
 だが、戦略が適切であるためには、その戦略設定の基礎に何らかの「基盤となる確固たるもの」、すなわち、「ハードな行動基盤」がなければならない。つまり、戦略が「ソフト構造」の体質のものであれば、それを支える「ハード構造」の体質のものがなければならないということである。
「戦略」を語る前に、「戦略基盤」としてのパラダイム(経営理念)が「与件」としてなければならない。いま、「ソフト構造」の体質のものが「戦略」であり、それは状況関連的に変化するもの――「変化する部分」――であるが、その基盤となるものとして、「ハード構造」の体質のものがなければならない。この「ハード構造」のものは、短期的には変化せず、ある期間にわたって安定的に適用される「理念」としての「経営パラダイム」であり、それは状況関連的に変化しないもの――「変化しない部分」――であるといえる。
 このように、システムは「対比的な構造」ないしは「上下の構造」として、
(1)「ハード構造」と「ソフト構造」、ないし
(2)「変化しない部分」と「変化する部分」
 との構成的構造をなす。

媒介構造の必要性
 ただし、ハードとソフトとの間に「媒介するあるもの」が必要となってくる。つまり、「接着剤的なもの」といってもよければ、両者の「連結帯的なもの」が必要となってくるのである。つまり、「媒介項」ないし「媒介概念」が必要だということである。
 ここに「戦略論」展開における基本構図が完成する。いま、それを図形化して示したのが、「図1」である。
「図1」では、「変化しない部分」と「変化する部分」とが、「媒介項」を挟んで、一体的な構造として描かれている。実は、経済社会環境が安定的であった時代においては、人間社会における「制度」の多くは、このような3つの構成要素が分離することなく、一体的構造をなす形態で具現していた。
 具体例で示すことが理解しやすいと思うので、これを会計学の領域における会計公準のうちの一例を挙げて説明したい。

会計学領域での例示――会計公準論
 ここで「制度の構図」を実際の例で示す意味で、会計公準を取り上げてみたい。会計公準とは、会計理論または会計原則を成り立たせる基礎的要件を表わす。
 ところで、近代会計が制度的に成り立つための要件として、次の3つの公準が必要であるとされている。この会計公準は、ギルマン(アメリカの会計学者)が、コンベンション(convention=公準)という用語により、近代会計制度の成立する過程を解明するための歴史的観察法から誘導したものであり、今日一般に承認されるところとなっている。

(1)企業実体の公準
(2)会計期間の公準
(3)貨幣的評価の公準

 会計学書で「会計公準」について語るとき、多くの著者達は以上の3つの公準を指摘するに止まる。しかし、ここには次の2つの問題が含まれている。
(a) この3つの公準は、近代会計の制度成立外形的条件を示すもので、その内形的条件である勘定に係る簿記公準に欠けていること。
(b) この3つの公準では、「一定の目的との関連でなくてはならない条件」(目的関連的条件)と、どのような目的をとるかに拘わらず変化せず、安定的な構造をもつ条件(目的中性的条件)とを一括してコンベンションとして扱っていること。

 (a)の問題点は重要な論点ではあるが、当面、戦略論との関連が重要であるので、暫く措くこととしたい。
 (b)に関連して何が問題かを、上記(3)の「貨幣的評価」について取り上げてみよう。
 貨幣資本経済制度のもとでは、種類を異にする経済的有価物を統一的に計算するために、物量単位ではなく、公分母として貨幣単位をもって表示する必要がある。これが貨幣的表示の公準といわれる。この公準は計算の形式的同質性を保証するものである。しかし、会計行為は、ある会計事実に対してどれ程の貨幣量を与えるかという計量化を必要とする。これを貨幣的評価の公準という。
 この公準によると特定の会計目的観に立脚する限り、統一的な評価額により測定すること(例えば、取得原価による評価およびその期間的配分)が要請される。つまり、内容的同質性を保証するような計量化が満たされなければならないことになる。
 従って、貨幣的評価の公準は、目的公準によりその内容が変化する。例えば、株主の投下した貨幣資本の維持・回収計算(受託責任の解明)を目的とする場合、貨幣資本を具体化する取得原価による費用化計算が正当化され、企業の管理能率の測定(業績管理)を目的とする場合、財貨の販売時点におけるカレント・コスト(時価)の費用化計算による操業利益(=売上高―カレント・コストで評価された売上商品の原価)の計算が正当化されうる。このように、取得原価による評価かカレント・コストによる評価かは、目的公準と関連して決せられる。このことを図形化したものが、「図2」である。


 このように、貨幣的表示の公準は取得原価主義をとる場合であっても、カレント・コスト(時価)をとる場合であっても、変化することなく共通の公準たり得るのであるが、目的公準として何をとるかで、取得原価主義や時価主義が成り立つこととなる。かくして、「貨幣的表示の公準」(変化しない制度公準)をベースに「媒介項」として「目的公準」が入ることで、「貨幣的評価の公準」として様々な評価基準が成り立つ構造(目的いかんで変化する会計公準)となっている。それは次のように、「図3」で表すことができる。


TKC全国会の戦略構造
 上に述べたように、戦略は流動的な「場の理論」として、一定の目的を介して状況適合的に設定されるもの(変化する部分)であるが、その基礎には確固たる戦略基盤(変化しない部分)が存在しなければならないことが理解された。すなわち、一般的な表現法としては、確固たる戦略基盤としては「経営パラダイム」が存在し、「目的」を媒介として、「戦略」が展開されるという構図が出来上がる。
 TKC全国会の場合においても、戦略基盤となる「変化しない部分」として、明確な「経営理念」が存在する。それは「自利利他」の理念であって、超歴史的な概念としての「人間の本性」に関わる概念たる性格のものである。かくて、「自利利他」を「基底的な基盤」として成り立つ戦略構造が浮き彫りになる。「KFS戦略」がそれである。かかる戦略を展開するに当たり、「媒介項」に「目的概念」としての「経営革新」を設定している。ここに「TKC全国会戦略」の全景が浮かび上がってくる。
 繰り返すまでもなく、「自利利他」を基盤に「目的概念」として「経営革新」を設定することにより、「KFS戦略」を展開するという構図が出来上がっている。これにより、TKC全国会としての全体的企業価値が定まる。このことを図形化したものが、「図4」である。


2.コンピュータの構造とTKC全国会戦略との整合性

 先に述べた戦略の構造が、それ自体、公理的構造として有意な体系であることを立証するための手段として、コンピュータの構造を紹介しようと思う。
 コンピュータは、ハードウェア(hardware)とソフトウェア(software)とから成る。ハードウェア(以下、ハードという)とは、コンピュータ自体のことで、一般にOS(Operating System)と呼ばれるコンピュータの物理的実体をなすものであるのに対し、ソフトウェア(以下、ソフトという)は形を持たない手順や命令などを指し、ハードを動かすプログラムのことである。
 つまり、ソフトはハード上でその機能の助けを借りて自らの役割を果たすものであるから、どの程度の機能を果たすかはハードの機能上の差にかかっている。すなわち、ハードがないと、文字を書いたり、表計算を行ったり、図形を作成したり、あるいは電子メールを送ったり、場合によっては、ゲームを楽しむこともできない。
 従って、OSは基本ソフトといわれ、その上を走るワープロや表計算は、アプリケーションソフトと呼ばれている。現在、代表的な基本ソフトといえばウィンドウズ(Windows)、マックOS(Mac OS)およびUNIXが挙げられよう。
 コンピュータの構造を理解するに当たっては、ウィンドウズが現れる前の機種であるパーソナル・コンピュータ(personal computer)の構造が、企業等の「組織」の構図を考える場合、参考になると思うので、先ずそれについて説明したい。
 パーソナル・コンピュータ(パソコン)では、キャラクタベースのDOS(ドス)が利用されていた。このDOSはマイクロソフト社の作成したものが有名であるため、通常、MS‐DOSMicrosoft Disk Operating System)といわれている。ここでキャラクタベースのDOSというのはソフトを操作するに当たって、キーボードから文字や記号によるコマンドを入力して実行するという利用スタイルのもので、いわばハード上でソフトを動かすための媒介項を形づくるものである。
 つまり、MS‐DOSは「機種に依存しないデータ互換性」をもっていることが大きな特徴であって、どのメーカーの、どのコンピュータを使用しても、MS‐DOSが稼動中であれば、データを使用することが可能であるという「データの共有化」が可能だ、という点に特色を持っている。
 以上の説明を図形化して示せば、「図5」のようになる。
「図5」で見られるように、ハードウェアは堅い機械部分であって、イメージ図として表現すれば、デコボコの凹凸があるため、その上で直ちに様々な作業を行うことができない。そのため、図で見られるように、その凹凸を埋める媒介項が必要となる。ブリッジをなすものが、MS‐DOSである。これによりフラットなプラットホームができあがり、その上に様々なソフトを走らせることができるというわけである。
 しかし、このDOSは機械語を知らない初心者向けの操作環境ではなかったため、その点を改善してウィンドウズが現れた。Windows 95ではMS‐DOSの機能の一部を引き継いでいるものの、基本的にそれが不要となり、絵文字などを用いた図案的指示(アイコン:icon)を画面に表示し、これをマウスでクリックすることで基本的な操作が行えるようにしたものである。それをGUI(Graphical User Interface)といい、初心者にも容易に扱いやすい環境となった。
 このように、コンピュータは人間の作り出したマシーンであるが、その果たす機能は最も合理的な構造として作り上げられていることが知られる。組織は三層の基盤が合理的に組み合わさったとき、最も理想的な構図ができたとみてよい。その意味では、TKC全国会のこれまでの組織理念は、まさにコンピュータの構造と同じ構成をとるものであることが理解できた。極めて合理的かつ適切な構成的構造を描き出している。

3.TKC文化の鳥瞰図

 TKC全国会という組織が、「理念と戦略」という観点から、どのような組織であるかを全体として見通すことのできるような鳥瞰図で示しておきたい。まず、「図6」でそれを示した

TKC文化制度の内政構造
  TKC全国会という税理士の組織団体が組成され、そこに十全なる組織活動が展開されているのは、その根底に確固たる経営パラダイム(経営理念)をもっているからである。その経営パラダイムは、「自利利他」という表現によって代表される「TKC理念」である。それが「理念」として、TKCすべての成員の意識のうちに定着している限りにおいてそれが既に「文化化」したといえる。従って、「自利利他」の理念は、「TKC文化」となっているといえるのである。
 注意すべきは、TKC文化は、「自利利他」を中核とするトライアングル構造として構成化しているのである。まず、そのことを図形化しておきたい。「図7」を見られたい。
「図7」については、既に会報「TKC」平成14年7月号で解説したので、ここでは説明を割愛したい。図形から理解できることは、「自利利他」を中核概念とした3つの理念によって構成されたトライアングル(三角形)を形づくっており、これら3つの概念の相互間において「循環の輪」を描きながら「協働的な作用関係」にある。協働的作用関係にあるということは、これら3つの概念のどれが欠けても組織として成り立たない関係を示すもので、最も安定し、強固な関係を表現していることである。これがTKC全国会の「ハード構造」をなしている。
 更に、そのハード構造の上に「TKC全国会戦略」が展開されるのである。具体的な戦略としては、「KFS戦略」がそれである。
「K」とは中小企業の経営計画策定や仕組みづくりを支援する「継続MASシステム」のことであり、「F」とは経理事務の合理化並びに意思決定を支援する業績管理ツール「戦略財務情報システム・FX2」の利用を意味し、更に、「S」とは適正な税務申告書の作成と提出を支援するための「税理士法第33条の2による書面添付制度」の展開を意味している。
 このような具体的な戦略を媒介する「ブリッジ・プリンシプル」が「経営革新」である。「変化しない世界」である「自利利他」をベースとして、「媒介項」に「経営革新」を据え、その上に「KFS戦略」という「変化する世界」が展開している。これら全体像が、TKC全国会という組織の価値を形づくっているといってよい。すなわち、「TKC全国会組織価値」が形成されるのである。かかる組織価値をもつ構造が、TKC全国会の「内政構造」となっている。

TKC文化制度の外政構造
  TKC全国会は、社会に向けての情報発信基地としても重要な役割を演じている。「社会」とは、「経済」、「政治」および「行政」という3つのセクターから構成されたトライアングル体制として成り立っていると考える。それは「図1」の「外政構造」の箇所を見て頂きたい。
 TKC職業会計人は「経済」のセクターで社会を支えている。ここで重要なことは、TKC全国会の活動において、絶えず「政治」との関係や「行政」との関係を「人と人」との関係と同様に重視してきたことである。
 TKC全国会の理念の1つである「職業会計人の職域防衛と運命打開」の道は、独りTKC全国会のためのみのものではない。それを「自利」として観念し、実現することは、会員一人ひとりの努力と自己研鑽の上に成り立つものであるが、そのことを通じてあまねく職業会計人の職域防衛と運命打開につながって行くとする認識こそが、「利他」の世界であると認識している。
 そのためにも「政治」(提携国会議員)とますますよりよい関係を築いて行かなければならない。TKC全国会の活動で、書面添付制度の一層の推進が行政コストの削減とわが国中小企業の育成に連なっていくのであるから、「行政」(官庁)との関係も大切にして、これまた従前以上に密接な関係を維持していくことが行動方針と認識している。
 経済のセクターに位置づけられるTKC全国会は、これら政治と行政というトライアングル体制の中にあって、職業制度および租税制度に関する法規範の健全化の実現を図るために政治と行政に働きかけなければならない。このことがTKC全国会の「外政構造」を形づくっている。

4.結びに代えて

 「自利利他」の理念は決してうつろうことなくTKC会計人の心に定着し、中心的な軸となるパラダイムとして文化化している。基本軸となる「自利利他」を中核に据えて、一方で「内」に向かっての戦略展開を、そのとき時の時局的課題の解決のために、それを戦略要素として取り込むことにより、TKC全国会としての「組織価値」の充実に努めてきた。それと同時に、他方で「外」に向かっての戦略展開を「社会」に働きかけ、「経済」のセクターから「政治」と「行政」との間に「協働的トライアングル体制」を築いている。
 このようにTKC全国会は「自利利他」を基本軸として、「内政構造」と「外政構造」とから成る「均衡のとれた論理体系」として構成的に安定化した構造をもつに至った。かかる状態をもって、「TKC文化制度」が構築されたとみるのである。
 その意味での文化制度を安定構造として、なおも内容において充実させるためには、会員一人ひとりの自己研鑽にかかるところが大きいのである。会員の皆さんと共に、制度充実と発展に向けて前進したいと考える。                         

                  (会報『TKC』平成15年1月号より転載)