■TKC全国会の経営革新支援

 中小企業庁次長 西村雅夫氏に聞く
 中小企業を支援する新法の目玉は新連携による「経営革新」

  インタビュアー会報『TKC』編集長 高橋湞夫
          TKC全国会事務局長 髙田順三


西村雅夫中小企業庁次長 平成11年の「中小企業基本法」改正と相前後する形で、平成7年「中小創造法」、11年「新事業創出促進法」「経営革新法」(略称)という中小企業を支援する法律群が登場した。TKC全国会も創業・経営革新アドバイザー制度を立ち上げ、目下、経営革新法承認5000件の支援活動を展開中だ。この春、3法は整理統合されて、「中小企業新事業活動促進法(仮称)」という骨太の法律となることが検討されている。中小企業庁の西村雅夫次長を訪ね、平成17年度中小企業対策関連予算案の概要を聞いた。「中小企業の会計」の普及についても西村次長は、TKC会計人に期待を寄せた。

「新連携支援地域戦略会議」で
異分野連携による事業化を支援

 ――新聞報道にもありましたが、今年度の中小企業支援策の目玉として、今通常国会提出予定の「中小企業新事業活動促進法(仮称)」が検討されていると聞いています。

 西村 17年度の中小企業関係予算の政府案が昨年末に決まり、中小企業支援策として次の4つの重点項目が掲げられました。

 1.「市場に挑戦する中小企業の支援」を通じた経済活性化・地域再生
 2.中小企業の人材育成・活用支援
 3.中小企業の再生支援と中小企業金融の多様化・円滑化
 4.商店街・中心市街地活性化対策の重点投入


 今通常国会に提出される新法に関する予算措置は、1番目の“「市場に挑戦する中小企業の支援」を通じた経済活性化・地域再生”の中で講じられています。
 今まで中小企業の経営革新等を支援する中核的な役割を果たしてきた法律には、「中小創造法」「新事業創出促進法」「経営革新法」がありましたが、中小創造法が期限切れを迎えることもあり、この際、3法を整理統合して一本化することを検討しています。この3法は、これまで中小企業支援の中核法として、中小企業の方々に積極的に活用していただきました。
 例えば、経営革新法では1万5000件以上の経営革新計画の承認が行われ、各種支援策が実施されています。しかし3法の間で支援対象や支援措置が類似しているものもあることから、中小企業の方々によりわかりやすくより使いやすい骨太の法律として再構築し、支援措置等も強化したいと考えています。

 ――新法には、「新連携」という考え方が採り入れられるそうですね。

 西村 個々の中小企業が優れた技術力や商品力を持っていても、一企業だけでは製品化が困難であったり、販売力が弱くて市場化できないケースがあります。そこで複数の事業者が異なる事業分野で蓄積したノウハウ・技術等の経営資源を持ち合い、そのすりあわせを通じて高付加価値の事業化を推進する。その取り組みを「新連携」と定義して、新たな支援対象としていきたいと考えています。

 ――新連携を推進する背景等をお聞かせください。

 西村 グローバリゼーションの深化・国境を越えた競争が激化すること等により、これまでの取引環境が大きく変化し、取引関係の多面的展開・メッシュ構造化が進展する等、国内中小企業が支えてきた環境が大幅に変わってきました。例えば、大企業サイドの発注形態も「機能発注」「性能発注」といわれる形態が増えつつあります。ビジネスのスピードも早くなってきており、ビジネスの時間軸の短縮化を図らないと事業化も容易ではありません。ですから各々が強味をもった企業間どうしの相互補完的な連携によって、高度化した市場ニーズにも対応できる製品・サービスを模索する必要があると考えています。

 ――新連携対策事業費として、新規に46億円の予算措置が行われていますが、具体的にはどのような支援が行われるのですか?

 西村 マーケティングや技術の専門家、政府系・民間金融機関等で構成する「新連携支援地域戦略会議(仮称)」を全国9か所に設け、新連携計画の申請前から関係する専門家がプロジェクトをみがき上げ、地域の総力を結集して支援します。新連携計画認定後も専門家(プロジェクトマネジャー)が事業化までをフォローアップできるようにしたいと考えています。
 これまでの経営革新法ですと、計画の承認を受けても金融機関の融資審査が別途に必要であったり、補助金等の助成措置をすぐ受けられないという事情がありました。しかし金融機関も参画する「新連携支援地域戦略会議(仮称)」を設けることで、もちろん個別の融資判断が前提となりますが、認定と助成措置のリンケージが改善されることを期待しています。新法でも引き続き個別企業における創業や経営革新を強力に支援していくことになりますが、日本経済が大きな転換点にある現在、中小企業においても新連携による経営革新を大きく位置づけることも必要だと考えています。

 ――では、認定後の支援状況をお聞かせください。

 西村 経営革新や新連携を進めようとする各計画認定事業者に対して、低利融資や信用保険法の特例、補助金等の各種支援策を講ずることになります。それに加えて、新法では設備投資減税や留保金課税の特例等、税制上の優遇措置が拡充されることになっています(資料1)。資料1 中小企業新事業活動促進法(仮称)の下での税制措置の統合・強化
 経営革新や新連携を支援するために設備投資額の30%の特別償却、または7%(リースを含む)の税額控除が措置されています。経営革新法では経営革新計画の承認事業者のうち、ある一定要件(注1)を満たした中小企業にのみ設備投資減税や特別償却が行われていましたが、新法ではこの要件を撤廃し、経営革新につながる設備投資がより円滑に行える環境づくりを支援することにしていきます。
 また、創業と経営革新支援に関しては留保金課税の特例も実施されることになっています。ですから既存の3法を単に統合したのではなく、考え方や支援内容も強化・拡充されているのです。

(注1) 現行措置で、対象を経営革新計画承認企業のうち、(1)生産額等が10%減少した場合に限る、としている要件を撤廃し、(2)税額控除は資本金3000万円以下の企業に限っていたものを承認企業全て(製造業で最大3億円以下等)に拡充する予定。

企業等OB人材活用推進事業に
税理士等の協力を期待

 ――その他の創業・経営革新支援策をお聞かせください。

 西村 創業と経営革新を図る事業者に対し、技術開発から販路開拓まで一貫して支援する施策として「スタートアップ支援事業」があります。
「スタートアップ支援事業」は、平成16年度にスタートしました。これは経済産業省が発表した『新産業創造戦略』において、戦略産業分野とされている情報家電等の強い競争力を持つ「先端的新産業群」や、シニア向けサービスや環境・資源制約対応等の「ニーズ対応新産業群」等の創出・拡大を担う中小企業に対し、優れた技術を事業化するために総合的支援を行うというものです。具体的には、実用化開発、知的財産取得、販路開拓等への資金面の助成を行います。ともすると従来は、中小企業の研究開発や技術開発ばかりに支援が行われていましたが、この事業では開発後の市場化も含めて、ビジネスプランの構築から事業化まで一貫したコンサルティング支援が行われます。また、中小企業基盤整備機構に専門人材を配置して、商社や企業への紹介等を行う販路開拓コーディネート事業を17年度中からスタートしたいと考えています。
 商工会・商工会議所等の優れた支援人材(シニアアドバイザー)が創業や経営革新を志す者に対して、ビジネスプランの策定やマーケティングリサーチ等の支援を行う新規の予算措置も講じることになっています。
 これらの中小企業を支援する人材の充実を図る施策としては、企業等OB人材活用推進事業があります。中小・ベンチャー企業の事業展開や経営革新に不足しがちな経営戦略等を助言する人材(企業等OB)の掘り起こしを行い、新事業展開を図る中小企業とのマッチングを支援します。17年度中に、企業OBの登録者数を1万名にする見込みです。最近は会社引退後にNPOなどで自分のスキルを活用される方がたくさんいます。この事業にはぜひ税理士の皆さんにも参加していただき、財務等の支援をしていただければと思います。

人材投資促進税制の創設
最大25%まで税額控除

 ――本年度の中小企業支援策のもう1つの柱に、「人材投資促進税制」の創設があげられると聞いていますが……。

 西村 産業人材を育成・強化する観点から、減少傾向にある企業の人材投資額を拡大に転じさせるため、人材育成に積極的に取り組む企業に対して、教育訓練費の一定割合を法人税額から控除する制度の創設が税制改正案に盛り込まれました。
 制度の概要は、「基本制度」と「中小企業の特例」の2パターンの選択制となっています。基本制度では、教育訓練費を基準額(前2事業年度の平均額)より増加させた企業について、その増加額の25%に相当する金額を当期の法人税額から控除します(法人税額の10%を限度)。中小企業の特例制度(注2)では、基本制度の基準額より増加した場合、教育訓練費の総額に対して、増加率の2分の1に相当する税額控除率(上限20%)を乗じた金額を当期の法人税額から控除します(法人税額の10%を限度)。例えば、基準額1000万円(前2事業年度の教育訓練費の平均額)の中小企業が、適用事業年度に教育訓練費400万円(40%)増加させた場合、基本制度だと100万円、中小企業特例だと328万円の税額控除が受けられます(資料2)。

(注2) 中小企業特例は地方税(法人住民税)においても適用される(課税標準を法人税額控除後の額とする)。

資料2 人材投資促進税制の税額控除額の計算例

 ――7割の企業が赤字体質という現在、中小企業のキャッシュ・フローや経営体質も悪化しています。リストラで人員もぎりぎりまで削減した結果、社内研修を行う人材も不足気味で、設備投資や人材教育をしたくても、その体力がない企業もあると思われますが……。

 西村 ご指摘のとおり、資金力や人材不足で投資する体力のない企業もあると思います。中小企業庁も、財務基盤が強く、経営体力のある企業のみを支援していくということではありません。470万事業者がある中で、中小企業の業態も、製造、販売、流通、サービスと様々です。各々の業態と景気の動向を注視しながらできる施策からしっかり行っていこうと考えています。
 既に経営革新法の承認企業だけでも、1万5000社以上あり、年率3%以上の付加価値成長を遂げて事業を拡大されている企業もこの中に多数あります。新事業展開を積極的に進めるチャレンジ精神のある中小企業を、引き続き発掘し支援していくことが必要です。しかし他方では業績不振の企業もあります。中小企業庁としては、創業・経営革新支援、金融・税制支援、企業再生支援といった選択肢の中から自社の課題に応じて施策を適切にご利用いただくことで、中小企業全体の活力が向上されることを模索しています。
 平成15年に始まった中小企業再生支援協議会事業では、各地の協議会で昨年11月末までに5306企業の相談に応じ、311社の再生計画策定が完了し、その結果、2万2331名の雇用が確保されました。現在も336社の再生計画策定を支援中です。将来の可能性のある中小企業が破綻に追い込まれる事態を回避するために、平成17年度の税制改正案でも企業再生の円滑化を図る税制措置を講じることが決定されています。

企業の一番身近な専門家である税理士に
「中小企業の会計」の普及を期待する

 ――では、「中小企業の会計」の普及・定着に関する取り組みをお聞かせください。

 西村 平成14年3月に中小企業庁において、中小企業の会計に関する研究会を主催し、中小企業にふさわしく、過重負担とならない「中小企業の会計」を作成して、同年6月に公表しました。その後、日本税理士会連合会では「中小会社会計基準」、日本公認会計士協会では「中小会社の会計のあり方に関する研究報告」をそれぞれまとめていただきました。中小企業庁としても、より多くの中小企業の方々に認知していただこうと、『中小企業の会計』という小冊子を作成し、昨年は改訂版を41万部配布しました。その他、商工会議所等で普及や促進を図ったり、TKC全国会の皆さんにも多方面でご協力を得ています。
 平成16年度からは中小企業大学校の協力を得て、中小企業の会計基準の普及に関するセミナーを全国で約200回開催し、1万名の経営者に受講していただけるよう計画を進めており、「中小企業の会計とは何か?」という入り口論からはじめ、会計マインドの必要性と啓蒙に努めています。

 ――より普及させるためには何が必要でしょうか。

 西村 1つの方向性としては、インセンティブ(意欲の刺激)だと思います。例えば、TKC全国会と東京三菱銀行等の間で行われている融資制度に「TKC戦略経営者ローン」があります。税理士等の皆さんがしっかりと財務管理や経営計画策定支援を行い、しかるべき会計基準を実践した企業に対しては、担保や第三者保証に頼らない迅速融資が行われる。つまり中小企業の会計基準を活用して、計算書類の適正性を公表すれば、そのことが企業の信用力となって、新しい形の融資の恩恵が受けられる仕組みがあります。このようなインセンティブの存在が中小企業の経営者の皆さんに、「中小企業の会計」の重要性を認識していただくきっかけになると思います。右肩上がりの時代は終わり、土地担保に依存した融資形態は通用しなくなっています。ですから中小企業の会計基準と融資をリンケージさせる、新たなシステムの構築はとても意義のあることだと思います。

 ――今年は国会で商法改正の議論が行われ、来年には会計参与制度(仮称)が創設される見込みです。この制度と中小企業の会計の関連性をどうお考えですか?

 西村 昨年11月に中小企業政策審議会において、中小企業の会計の質の向上について審議が行われました。そこで会計の専門家によるコンサルティング力の強化が議題に上がりました。中小企業の計算書類の作成段階における会計専門家の積極的活用、つまり会計参与制度の有効性が議論されたのです。今後は中小企業の取引先や金融機関にも「中小企業の会計」の存在を知っていただき、より有効活用してもらえたらと思います。

 ――いま計算書類の適正性に対する社会の関心、逆にいうと、計算書類の虚偽に対する社会の関心が強まっています。TKC会計人は月次巡回監査や書面添付の実践等によって、今後も引き続き中小企業の計算書類の信頼性を高める努力をしていきたいと思います。

西村雅夫中小企業庁次長(左) 西村 「中小企業の会計」の普及・定着は重要な課題です。やはり企業の一番近くにいる専門家は行政ではなく、税理士をはじめとした専門家の皆さんです。会計参与制度の問題も含め、これからは関係者と連携をとりながら、この分野でも皆さんのご支援をいただきたいと思います。

企業は己を知り
専門家は後押しをする

 ――最後に、TKC会計人へ要望などがありましたらお願いします。

 西村 アンケート結果でも、税理士の皆さんを通じて「中小企業の会計」の存在を知らされたという回答が一番多くありました。税務、会計、財務管理の分野では税理士の方々は企業と深く関わり、中小企業の実態をよく把握されています。今後は税理士にビジネスプランの策定や経営全般のコンサルティングのニーズも高まってくるでしょう。特に、TKC会計人の皆さんは月次巡回監査を実施され、創業や経営革新支援の分野においても、経営計画の策定、資金繰り、業績管理、黒字化支援等を一貫して行っています。また、中小企業支援センターの登録専門家として、経営助言等の様々な支援を実践されています。今後も中小企業施策へのご理解と利用促進についてご協力をお願いしたいと思います。
 この10年で中小企業を取り巻く環境はますます複雑となり、経営課題も高度化し、企業が抱える経営課題の解決への困難性という点については、大企業と中小企業という線引きも曖昧になってきました。高度な専門知識やネットワークの構築、財務管理等が企業の命運を左右する時代です。一企業だけで自社の課題を克服することは容易ではありません。ですから税理士であれば財務や会計の知識、あるいは研究開発や販路構築などの専門家が有機的につながって支援をし、中小企業全体の底上げを図っていくことが期待されています。しかしそれ以上に問われることは、経営者自身が自社の現状をしっかりと分析されて、その実態と課題を把握することです。財務面も含め、自社の姿を正確に認識することが何よりも大切です。

 ――まずは己を知るということですか。

 西村 そこがしっかりできれば解決の道は自ずと決まってくると思うのです。日本の中小企業が持つ潜在能力は本当に素晴らしいものがあります。解決のための手法やスキームが必要です。税理士の方々であれば財務管理や経営助言を中心に行っていただき、行政は行政の立場からお手伝いさせていただく。お互いの役割をしっかりと踏まえながら、日本の中小企業が飛躍する環境作りを各ステージで行っていくことが大事だと考えています。

 ――飯塚毅名誉会長の言葉で表しますと、企業は「脚下照顧」し、会計人は「自利利他」の心でサポートに徹せよということになりますね。

西村雅夫(にしむら まさお)氏プロフィール

京都府出身(52歳)。77年東京大学経済学部卒業後、通商産業省(経済産業省)へ。資源エネルギー庁海外炭対策室長、外務省在大韓民国日本国大使館一等書記官、通産省生活産業局原料紡績課長等を経て、01年内閣府政策統括官(科学技術政策担当)付参事官(総合戦略担当)、02年九州経済産業局長、03年中小企業庁経営支援部長等を歴任し、04年6月現職に就任する。

(構成/TKC出版  程田靖弘)
(会報『TKC』」平成17年2月号より転載)