■TKC全国会の経営革新支援

 <講演録>
 「経営革新支援法」その制度と活用方法

TKC全国会 創業・経営革新支援委員会 副委員長 赤岩 茂

 TKC全国会では、KFS実践の経験を最大限に活用し、関与先をはじめとする中小企業の創業と経営革新支援を推進している。今年4月に発足した創業・経営革新支援委員会の赤岩茂副委員長が、第83回TKC全国会理事会において経営革新支援法の活用とTKC会員事務所の支援のあり方について解説した。

中小企業政策の大転換
やる気のある企業を支援する

 現在のような大不況下では、従来の経営常識が通用しなくなっています。また中小企業を取り巻く数々の現象からも、これまでとまったく異なる手を打たなければ、生き残りやさらなる成長は不可能であると理解いただけると思います。
「老舗は不断の革新から生まれる」という言葉があるように、長い間を生き抜いてきた企業は、その時々の時勢に合わせて、自らを変えていったのです。どのような商品であれ、サービスであれ、永遠に利益を上げ続けるものはありません。何も手を打たなければ、消費者のニーズの変化や飽き、競合他社の参入などの様々な要因によって、利益率は徐々に低下していくのです。
 企業が社会のシステムの一構成要素であるならば、社会に有用な価値を提供し続けてこそ、その存在意義があるといえます。その意味でも、企業は常に社会の変化を敏感に察知し、その方向性に合わせて自らを変えていかなければならないのです。
 また、5.9%という現在の廃業率では、10年で企業の半数がなくなってしまうことになります。これらの企業は役割を終え、経済システムから退場していったと考えることができます。あるいは、自らをイノベーションできなかった企業が消滅したともいえます。
 いついかなる時代でも社会に有用な価値を提供し続ける企業は、周囲から支持されます。だから存続できるのです。その意味でも経営革新は経営者の責務であり、特にこの経済環境を打破し、さらなる成長軌道に乗せるためには、経営革新を断行するしかないのです。
 そして、そのなかで経営革新、創業を支援しながら新たな中小企業を築いていくことが、我々会計人に求められてきているといえます。
 わが国では、大企業との格差是正を基本理念とする中小企業基本法が昭和38年に制定され、長い間有効に機能していました。
 ところが、中小企業を取り巻く環境が時代とともに変化し、また中小企業そのものも変質してきました。そのような背景から、平成11年に中小企業基本法が抜本的に改正され、これまでの「中小企業は弱者であり、保護すべき」という観点から、中小企業は、新たな産業創出の基盤、雇用確保の場、地域経済活性化の担い手等の役割が期待される存在となりました。
 しかし、中小企業は大企業に比べ、人、物、金、情報等の経営資源の調達が困難であることから、一定の条件に合致した企業に資金を助成するなどの施策を通じて、創業や経営革新に貢献するように政策も大転換しました。
 つまり、ビジネスプランによって個別的に評価し、選択的に助成するという方向になったのです。
 従来の中小企業施策は、どちらかといえば、ある特定の業種に対する支援が色濃かったり、また使い勝手の悪い制度も見受けられました。そのようなことから、広く中小企業全般にわたって経営革新を支援する。つまりやる気のある企業とその経営者を支援する法律が要請され、「中小企業経営革新支援法」(以下、経営革新支援法)が制定されました。
 しかし周知度が低く、なかなか普及が進んでいないのが実情だと思います。

具体的な数値目標のあるビジネスプランが必要

 経営革新支援法の特徴は次の3点です。
(1)全業種での経営革新を幅広く支援
 今日的な経営課題にチャレンジする中小企業の経営革新を全業種にわたって幅広く支援することになります。
(2)柔軟な連携体制で実施
 経営資源・得意分野に限りのある中小企業の経営革新には、他者との柔軟な連携関係を最大限活用することが不可欠であることから、中小企業単独のみならず、異業種交流グループ、組合等との多様な形態による取り組みも支援するというものです。
(3)経営目標の設定
 事業者が経営の向上に関する目標を設定することによって、経営目標を達成するための経営努力が促され、また支援する行政側でも、計画実行中に、対応策へのアドバイス等を行い、フォローアップを実施するというものです。この目標については付加価値の伸び、または1人当たり付加価値の伸びが3年間で9%ないし5年間で15%とされています。
 経営革新支援法が、これまでの支援施策と大きく異なる点は、(3)のように具体的な数値目標を含むビジネスプランの作成が要件となっていることです。
 その理由の1つとして、経営革新の自己把握等、自社の戦略再構築のためであるとされています。具体的な目標や目安を持って経営する、すなわち目標による管理が必要であるということです。つまり中小企業経営のなかにマネジメントサイクルをきちんと落とし込んでいくことです。
 2つ目の理由として、常にマーケットを意識する必要があるということです。例えば創意工夫を凝らして新製品や新技術を開発しても、それがマーケットに受け入れられるかどうかはまた別の問題になります。したがって、常にマーケットがあり、お客様がいて、それではじめて企業経営が成り立つということを実感してもらうためのものです。
 3つ目の理由として、行政、その他が経営革新支援法承認企業を支援する際、数値目標と比較して、現状がどうなのか、追加的な支援策が必要なのかを具体的にアドバイスすることができるということです。
 そのような理由から数値目標が掲げられたわけです。

経営革新支援法における新たな取り組みとは何か

 経営革新支援法の対象となる経営革新の定義については、経営革新支援法の第2条第3項において、「新たな事業活動(新たな取り組み)」として、概ね4つが示されています。
・新商品の開発または生産
・新役務の開発または提供
・商品の新たな生産または販売の方式の導入
・役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動
 ここでいう「新たな取り組み」は、個々の中小企業にとって新たなものであれば、すでに他社において採用されている技術や方式を活用する場合でも、それが相当程度普及していないものであれば承認されます。その意味では、幅広い範囲で承認される可能性がありますので、まずは一度、申請窓口に問い合わせてみることが大事だといえます。
 経営革新支援法の承認を受けると、補助金、低利融資、税制の優遇措置など様々な支援策(表参照)を利用することができます。
 ただ補助金の場合、都道府県によっては申請期間を限定しているケースがあります。例えば、東京都は1月末に1週間程度の申請期間を設け、その間に申請することになっているそうです。あるいは私の地元茨城県では、4月に申請を受け付け、承認を受けた企業にだけ、案内が届くという仕組みになっています。したがって、助成金を利用する場合は、タイムスケジュールを踏まえたプランニングが必要になります。
 また政府系金融機関(主に中小企業金融公庫)による低利融資は、原則15年以内の固定金利となっています。その意味では、経営革新に取り組む意欲のある企業にとって非常にチャンスではないかと思います。
 ただ注意が必要なのは、経営革新支援法の承認を受けた企業がすべてそのまま融資を受けられるわけではありません。承認を受けても、各金融機関の融資審査が必要になってきます。その場合、当然、さらに詳しいビジネスプランを提出していく必要があろうと思います。
 その他に、中小企業信用保険法の特例があります。これは債務者区分が若干悪く、金融機関としてこれ以上融資する余裕がない場合に、通常の限度額以上の別枠として、信用保証を受けられるというものです。つまり資金調達の道が開けるという制度です。

KFS実践の経験をもとに中小企業全般に貢献する

 経営革新支援法の全体像と活用法、そして会計事務所の取り組みをまとめたのが上の表です。ただ会計事務所の取り組みには、私の個人的な見解を含んでいることをご了承いただきたいと思います。
(1)施策の紹介と経営革新への動機づけ
 経営革新支援法はほぼ全業種が対象になりますので、そこから関与先企業に対する会計事務所のサービスとして2つ考えられます。
 1つは、このような中小企業向けの各種の施策を、タイムリーに経営者に知らしめていくということ。もう1つは、関与先企業経営者に経営革新への取り組みを動機づけすることです。
 つい最近、こんなことがありました。ある経営者と話をしていたところ、どうやら経営革新支援法に該当しそうなので、県の窓口と関連する機関を教えてあげたのです。その経営者は関与先ではなかったのですが、後日、私のところに問い合わせがありました。お話をうかがうと、申請書その他の書き方などがわからなかったので、顧問の会計事務所に問い合わせたところ、「わからない」と言われたそうです。その経営者は「事務所によってこんなに情報提供が違うのですね」と言っておりました。
 経営革新支援法という制度があり、さらにそれがお客様の役に立つということをしっかりと伝えるだけで、経営革新支援のスタートになるということを感じました。
 また、TKC全国会では、10月に「TKC経営革新フェア(仮称)」の開催を予定していますので、この機会を通じて、関与先の経営者への動機づけをはかってはいかがでしょうか。
(2)経営革新計画の策定支援
 やる気のある企業、つまり経営革新に取り組む意欲のある企業が、「新たな取り組み」をすることによって、付加価値額をアップさせていく。まさにこれはTKC会計人がこれまで行ってきた継続MASによる経営計画策定支援そのものであります。
(3)様々な支援策のコーディネート
 経営革新支援法を受けた企業には、様々な支援策が用意されています。そしてその支援策を有効に活用するための指導、助言、コーディネートが会計事務所の役割になります。
 私の関与先で、補助金を受けて、新製品開発のための市場調査を専門のコンサルタントに依頼している例があります。つまり、マーケティングや市場調査などの専門外の領域についてはその分野の専門家にお願いすることになります。このように経営革新支援においては、様々な場面があるでしょうが、すべて会計事務所が支援するのではなく、我々にしかできないところをきちんとお手伝いすることが大事だと思います。
 また経営革新支援法の承認後、1、2年内に、計画どおりに進んでいるかの審査があります。これは成果が表れているかを確認し、成果が出ていなければ何らかの追加支援策が必要かどうかを見るために行われるものです。したがって、申請以上に、フォローアップが重要になってくると思います。
 我々TKC会計人は、月次巡回監査や月次の経営助言、四半期に1回の決算検討会の実施、業績管理体制の構築、あるいはそのフォローアップを行うことをすでに日常業務において実施しています。
 したがって、経営革新支援とは、従来のKFS実践の経験をもとに、さらに磨きを掛けて、関与先企業を中心とする中小企業全般に貢献することではないかと考えています。

        (TKC出版 豊開弘行)

(会報『TKC』平成14年7月号より転載)