株式会社ウエマツ 代表取締役社長 上松信行
関与税理士:竹澤利樹税理士事務所 所長 竹澤利樹(TKC北陸会)
繊維の町として知られる福井。しかし近年は、海外及び国内市場での外国製品との競争激化により、県の繊維出荷額は年々減少傾向にある。染色整理業株式会社ウエマツは、「小ロット・多品種・短納期」戦略で業績を伸ばしてきた。しかし外国製品の攻勢をにらみ、新たに「オリジナリティー」路線へと事業展開をはかるべく、中小企業経営革新支援法の承認を受けた。同社の上松信行社長と関与税理士の竹澤利樹会員、監査担当者の山口重勝氏に聞く。
オリジナル商品の開発で委託型から提案型へ
――御社は、染色整理業ということですが。
上松 各種織物、編み物、レース等の染色仕上加工を行っています。製織業で織られた生地が、縫製会社で服などになるわけですが、その前の工程で生地を染めるのが染色整理業になります。
――平成12年に経営革新支援法の承認を受けられたそうですが。
上松 結論から申しますと、新しい技術と設備を導入して、オリジナル商品を作りたかったのです。
平成5年に地元の大手染色会社を辞めて独立したのですが、創業以来の戦略が「小ロット・多品種・短納期」の3つです。これは以前から業界内で叫ばれていたことですが、実際にその3つを実践しているところがなかったのです。だからこの3つを自分が実践しようとはじめたのが当社なのです。
それから5年ほどは、時代のニーズともマッチして、比較的順調に伸びてきたのですが、中国、韓国、台湾など海外からの攻勢が激しく、国内繊維業界自体が縮小してきました。
当社としても、このまま3つの戦略だけでは優位性を維持することは難しい。そこで4つ目の戦略として「オリジナリティー」が今後の課題としてでてきたわけです。
どの染色会社も同様ですが、従来は商社や繊維問屋から「この生地をいつまでに染めてくれ」と依頼される委託受注型でした。しかし、これからはオリジナル商品を、こちらから積極的に商社などに提案していくことも必要だと考えたのです。
そのためには、新しい設備を導入し、従来とはまったく違った技術による商品開発が必要になります。その計画を具体化しつつあるときに、竹澤先生から経営革新支援法を教えていただきました。
竹澤 上松社長とは経営者の勉強会で一緒になり、平成10年から関与をさせていただいています。社長から、新しいことにチャレンジするという話をうかがったので、「国の後押しで低利融資を受けられる制度がありますよ」と経営革新支援法のことを紹介しました。すると社長のほうがすぐにピーンときて、承認に向かってダーッと走りだされたわけです。
――新しい取り組みに対する社員の不安はありませんでしたか。
上松 社員の前で「これまでの3つの戦略だけでは将来性はないのではないか」と話したところ、20歳代の社員を中心に、「20年先、30年先のことを考えれば、新しい展開は必要です。みんなでやりましょう!」という声が上がりまして、結果として全員が賛成してくれました。
融資と助成金による支援で設備と人材を確保
――承認申請のほうはスムーズにいったのでしょうか。
上松 申請窓口は福井県商工労働部になるのですが、申請を受け付けてもらうまで7回も通いましたよ(笑)。
まず受付担当の方が、当然、当社のことを知りません。地元での知名度もない会社ですから、「そんな染色会社あったかな?」という感じです。それと何よりも、本当にその事業に取り組む意思があるのか、本当にその商品は売れるのか、といった信憑性といいますか、経営革新計画の実現性についてかなり聞かれました。
もっともそんなにはっきり売上げが読めたら、経営者としては楽なんですけれど……。ただ、私が良いと思うから、真剣に取り組むわけです。
当社が申請したのは、「特殊後加工」による商品開発で、簡単にいえば、染色の際に生地に様々な加工を施すものです。しかし、受付担当の方が繊維に詳しいわけではないので、なかなか理解していただけませんでした。すでに購入している機械も一部ありましたので、商品サンプルを見せたり、最後は実際に現場まで足を運んでもらって、やっと納得してもらいました。その代わり審査は一発で通りました。
竹澤 経営革新計画の数値目標として、付加価値額がいくらというのがありますが、数字の積み上げだけではなかなか信用されません。何が目新しいのかということを納得していただくのが意外に難しかったですね。
もっとも融資を引き出すために、いい加減な計画を申請している企業も多いと聞きます。実際、経営革新支援法の承認を受けても倒産している企業もありますから、行政側も慎重にならざるをえないのでしょう。それだけに会計事務所が経営革新を支援することは大きな意義があると思います。
――承認後、受けられた支援は?
上松 設備が必要でしたから、申請以前に取得した機械も含めて必要な設備投資計画書とそのための資金計画書を経営革新計画書に添付しており、それに基づいて今年は、中小公庫(中小企業金融公庫)の「中小企業経営革新等支援貸付制度」から3000万円の融資を受けました。申請と違って、融資は実にスピーディーでしたよ。
竹澤 ウエマツさんはもともと中小公庫と取引があったので、計画策定の段階から相談に乗っていただきました。中小公庫は経営革新支援に積極的ですよ。
上松 新しい事業には人材が5人必要なので、新たに2人を雇い入れ、これについては助成金(中小企業雇用創出人材確保助成金)を申請しており、下りるのを待っているところです。
新事業のコンセプトはネオ、クリエーティブ、ファッション
――経営革新支援法の認定を受けた「特殊後加工」と、それを軸にした事業展開について詳しくお聞かせいただけますか。
上松 「特殊後加工」というのは、生地をただ染めるのではなく、表面に加工を施すわけです。例えば凹凸感を出したり、ゴムを塗ったりするといったもので、他にもこれに付随して様々な表面加工があります。染める前の生地と染めた後の生地では、まったく別のものと思えるほど、見た目も手触りも違うものになります。通常、染めると生地は縮むのですが、縮まない技術で、すでに服になっているものを染めたりもします。
竹澤 生地のサンプルを見て、大手アパレル・メーカーのデザイナーから「使いたい」という声が結構あるのですよ。
上松 アパレル・メーカーは、ふつうは染色会社などには足を運ばないものですが、当社の場合は、実際に生地を見に来られます。当社の商品は、量販店向きではなく、ブティックや全国に店舗を持っているデザイナーさん向けです。三宅一生、コシノヒロコさんなどの有名デザイナーの方にもお使いいただいています。
――御社のオリジナリティーが高く評価されたわけですね。
上松 加工単価的には通常の加工賃に対しては2―3倍になりますが、何万、何十万円という衣料品を作るための生地ですから、良い物であれば高い加工賃でも注文があるのです。
フランス、イギリス、イタリアなどは、いまでも職人による手作りで、日本では真似のできないような良い物を作っています。もう芸術作品の域ですよ。だからイギリス、イタリア製の紳士服などは高価なんです。当社では、そこまでのレベルは難しいけれど、機械を使いながらも、企画性に富んだ商品を小ロットで作っていくつもりです。
――御社の成功を見て、今後、大手などの競合他社も現れるでしょうね。
上松 大手の染色会社が同じことをしようとしても、最低でも300疋(1疋は112―150センチ幅で約50メートル)以上は必要になります。でも当社の場合、小回りが利く分、1疋でも採算は合います。その点で太刀打ちできるでしょう。
竹澤 大手の染色会社はいわば巨大戦艦みたいなものですから、いざ船出しようとしてもなかなか動けないと思います。
上松 当社の場合、10疋か20疋くらいが標準です。あと納期にもよりますが、多くて50疋、100疋ですね。たまに大ロットの注文が入りますが、それは大手染色会社に協力してもらっています。
――外注に出す場合、品質や納期の管理はどうなさっているのですか?
上松 互いに技術陣が行き来して、短納期で仕上げるための訓練をしているところです。うちは100疋でも1週間で納品しますから、短納期でできなければ、うちから発注がなくなります。大手の染色会社も必死です。
――オリジナル商品の市場開拓は進んでいますか。
上松 サンプルを作って、短納期をセールスポイントに注文を取り、小口は自社で、大口は提携先に任せる、といったこれまでにないスタイルで事業展開をはじめています。
この事業部門は、ネオ(Neo)、クリエーティブ(Creative)、ファッション(Fashion)の頭文字をとってNCF事業部と呼んでいますが、この部門で当社の売上げの30%を占めるまでに育てたいと思っています。今年は3000万円が目標です。
失敗を恐れずに何にでもチャレンジする
――FX2による自計化や書面添付の実践をされているとお聞きしましたが。
上松 いままで決算書類は、金融機関や税務署に提出するために、いわば義務で作成しているという感じでした。ところが竹澤先生に指導をいただいてからは、決算書類は自社の事業内容を知るために作成するものと考え方がガラリと変わりました。
自社の内容がきちんと見えてくると、経費がどれだけかかって、それが製造原価にどう跳ね返ってくるかがはっきりと見えます。以前は、経理から「明日は資金が足りません」といわれるまでわからなかったのですが、いまは前もってわかりますし、計画的な事業運営ができるようになりました。
――監査担当者の山口さんは、今後どのようなサポートを?
山口 設備投資を必要とする業種ですから、資金面で気をつけていきたいと思います。新規事業の場合、軌道に乗るまでの期間がわかりません。社長は「3年後3割」とイメージされていますが、融資を受けて、設備投資をして、返済しながら事業を少しずつ拡張していくことの繰り返しですから、あとはいかに回収のペースが計画通りに進んでいるかのチェックだけですね。
竹澤 ウエマツさんは社長のアイデアや経営スタイルもしっかりとしていて、社員の方も元気がいいです。書面添付を実践されていますので健全性についても問題はありません。金融機関からの評価は高いですよ。
――最後に、抱負をお聞かせください。
上松 いまはとりあえず新しいNCF事業部に全力を尽くすことです。3月に東京での展示会に当社の商品を発表しました。今年は展示会への出展を3回予定しています。展示会でサンプルがピックアップされて、大きく商品展開する予定のものもでてきています。なかには、当社では手に負えないような大口もありますが、それは提携している大手染色会社に任せようと思っています。
私の信条は、「できないとは言わない」ことです。何でもできるという感覚で、手掛けたことのない商品であっても、自信がなくても「やります」と答えます。その分、失敗もたくさんありますが、失敗を恐れて何もやらないよりも、失敗してもいいから挑戦するという気持ちもこれからも持ち続けます。お客様から「ウエマツに持っていけば、なんでもやってくれる」と言われたいですね。
(TKC出版 豊開弘行)